短編拳銃活劇単行本vol.1

□駆けろ! 狼
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「……」
 彼女は小さく整った唇を凹ませて憎たらしげに腹のベルトに挟まっている黒星を睨んだ。
 裾の長いネル生地で拵えられた灰色のガヤベラシャツをボタンも止めずに着崩し、薄破れしたジーンズを穿いている彼女の名は時島朋絵(ときしま ともえ)。ショートカットの髪型に活動的なファッションを好む事から良く男と勘違いされるが閉店間際のワゴンセールで売っていそうなTシャツの下で存在を誇示している豊かなバストは明らかに「彼女は女である」と、証明していた。
 ズボンのベルトは素晴らしいウエストの縊れを露骨に表現するかの様に引き締められ、ローライズ気味なジーンズパンツに守られた臀は肉欲で煽情的な色香を漂わせる程に実っていた……だが、今はガヤベラシャツの長い裾に隠れているので、後ろからでは股間の僅かな隙間が偶に見える程度だった。
 美人と言うより魅力的……彼女・朋絵の風貌を語るにはそれが一番適していた。
 モデル体型の長身ではあったが、童顔の少年的容貌から街中では女性に振り向かれる事の方が多かった。


 彼女は待っていたのだ。
 自分がオーダーした商品が今夜届くと言うので来てみた訳だが、その商品と云うのは合法的でない為に密輸業者を仲介して運ばれてくるので便乗させて貰っている暴力団の傘下の密輸業者に混じっている。
 銃火器犯罪が安物Vシネマ並に氾濫してきた現在でも矢張り司法警察は厄介だ。
 朋絵が待っているのは愛用の拳銃の弾薬と高級なハンドガン用クリーニングリキッドだ。銃砲店に押し入ればクリーニングリキッドは手に入るだろうが、日本で販売されている製品は長物や射的ピストルをターゲットにした専用液しか置いていない。完全にクリーニングするには役不足だ。
 それに、弾薬も同じく銃砲店に行けば「それを置いている店も有る」が、朋絵が海外に「発注」したのは専門のリローダーが1発ずつ手詰め装薬したワイルドキャットカートリッジだ。日本円にして1発400円近い値段がする。そこへ密輸業者が割り込んでくる為に値段は倍近くに跳ね上がる。
 特殊なコネを持ってない朋絵には財布が痛い。だから、力の有る暴力団の尻馬に乗らなければ望む品が手に入らない。今夜のルートを確保する為にも危ない橋を渡った。
 様々な情報屋を渡り歩き、標的である暴力団の大幹部の人に言えない性癖を掴んでそれを脅しの種に使ったのだ。
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