短編拳銃活劇単行本vol.1

□犬の矜持
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 最近になって、マニューリンからリバイバルされたワルサーPPスーパー。特に大きく改良された点は無い。
 有るとすれば安全機能面が向上し安全装置とデコッキングが連動する様になっている点だ。オリジナルはデコッキングするだけで安全装置は付いていない。
 良く見ればワルサー社の刻印が技術提携しているマニューリン社の刻印に擦り変わっている。フルネームはマニューリンモデルワルサーPPスーパー。残念ながら十把一絡げにPPスーパーで呼び捨てられる事が多い。集弾性能やスペックはオリジナルと殆ど同じで特筆する事項が少な過ぎる為、一般的なサンデーシューターには見分けが付き難いのだ。口の悪い人は「マニューリンの後期のPPスーパー」と呼ぶ。
 使用弾薬は古くから欧州に存在する9mmウルトラ弾をベースに開発した9mmポリス弾を使う。弾薬の性能は弱装の9mmパラベラム弾と強装の9mmマカロフ弾の中間で、製造するメーカーも少ないマイナーな弾薬だった。それを、弾倉に7発。薬室に1発。


 一度見れば忘れる事が出来ないシルエットをしたワルサーPPスーパーをフルロード(※薬室に初弾を装填し弾倉も最大装弾)する。
 8発の9mmポリス弾を呑み込んだ中型自動拳銃を左脇のホルスターに落とし込んだ彼女は無造作に春物レザーベストに袖を通して、勢い良く自宅兼オフィスの小さな私立探偵事務所から大股で一歩踏み出した。
 だが。
 直ぐに踵を返して、慌ててオフィスルームに戻る。自分のスチールデスクの抽斗を漁って運転免許証位の大きさをしたカードを掴んでポケットに捩じ込んだ。このチャチなカードが無ければまともに仕事ができないのだ。


 盾列亜美(たてなみ つぐみ)。
 年齢・22歳。職業・私立探偵兼賞金稼ぎ。
 どちらかと言えば探偵業より賞金稼ぎ業やその他アルバイトの方が実入りが良い。
 一応、法を遵守する側の人間だが、何事かと警察署や裁判所へ顔を出す事の方が多い。今日もこれから最寄の警察署に出向いて然るべき部署へ昨夜、拳銃を使用した報告書を提出しに行く所である。
 自分に適応した職種が一般には見つからず、一念発起して自分が起業した私立探偵業で毎日の食費と毎月の諸々の経費を心配している、何処にでも居る売れない個人経営者だった。
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