短編拳銃活劇単行本vol.1

□塵の行方
2ページ/34ページ

 彩名にとってはこのフラットブラックの肌をした、全長197mm重量910g装弾数13+1発口径9mm×19弾のベレッタM92FSコンパクトLが一番、性格と手に馴染んでいた。
 慣れてしまえば米軍兵士が声を揃える様な重心バランスも気にならないし仕事上、大火力も必要無かった。彩名が望んでいるのは携行するのに不便でない、『或る程度』だ。全長も装弾数もそこそこ。「全てが悪くない数字だった」。
 それでも携行弾数に不安を感じるのか、システムショルダーホルスターの右脇には3本の弾倉を差し込めるポーチを繋げているし、左後ろ腰にはいつも2連マグポーチがベルトに通されている。間髪入れないマメな弾倉交換で火力不足をカバーする戦法だ。


 彩名はオーナーフリーの……誰にも飼われていない殺し屋だ。
 殺し屋と云う肩書きが陳腐過ぎて恥ずかしいので本人は『執行代行業』と名乗っている。今風の芸の無い、サプレッサーも装着していないハジキを用いた殺し屋だ。それなりの金を積まれれば生後3日の子供でもアメリカ大統領でも殺害する所存だが、残念ながらその様な過酷な仕事は舞い込んだ事が無い。
 それもこれも、彩名が若いから完全に暗黒社会から嘗められているのだ。


 御刀彩名。23歳。
 身長174cmの華奢にも見えるスレンダーボディに芯まで柔らかい紡錘形の凶暴な美乳を持つ。砂時計を思わせる腰の括れに女性の丸みを凝縮した様な尻と発条が良く利いた伸縮性豊かな四肢。特に太腿は性的な意味で一見に価する。
 艶やかな黒が眩しい、ボーイッシュなショートカット。
 瞳が大きく童顔気味な造りをした少年顔。だが顔のパーツの一つ一つはきめ細かく洗練され、しっかりと女性である事を引き締まった鼻筋と輪郭でアピールしていた。
 普段着は予想を裏切らず活動的なパンツスタイルを基準に男物のジャンパーやジャケットを羽織っている。勿論、ホルスターを隠匿すると言う大きな意味が有るのだが、それと同じ位に男物ファッションに憧れていた。
 改めなければと思っていても未だに一人称は『僕』。
 小さな頃から男の子より女の子に人気が有った。学生時分から数多の告白を断るのに苦労した。断る相手が男なら初めから相手にしないのだが、告白される相手が女であれば無碍にできない。バレンタインデーとホワイトデーが憂鬱で仕方が無かった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ