短編拳銃活劇単行本vol.1

□パッションピンクは眠れない
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 学校指定の黒い制靴を履き下着姿の上からコートを羽織る。後は何れも同系色のニット帽とマフラーだけだった。

 雪代貴子(ゆきしろ たかこ)。
 取り立てて語る程ではない中学2年生。クラス内でも孤立している訳ではないが級友と親しく接している訳でもない。
 それもこれも全ては実家が広域指定暴力団の傘下に収まるヤクザだからだ。望もうと望まざると自然と級友は距離を置く。

 彼女自身は『取り立てて語る程ではない中学2年生』。
 表向きは『取り立てて語る程ではない中学2年生』。

 彼女のもう一つの『歪んだ顔』は恨みを買い取る仕返し屋。極論で言えば犯罪被害者から金を貰って『クロの容疑者』を始末する殺し屋だ。
 義侠心で弱者の肩を持っていない。自分の昏いサディズムを有効に処理する為だけの手段として開業しただけに過ぎない。ヤクザの娘故に派手に嗜好をひけらかしていては野良犬の様な公安に嗅ぎ付けられる。そこで、誰もが口を噤み『協力』してくれる仕返し屋を開く事で刹那的で短絡的な性癖を満足させている。
 人間としては矢張り、ヒエラルキーの底辺を徘徊するゴミクズや蛆虫と同列の人種だ。それでも依頼人は喜んで雪代貴子を支持してくれる。


 「っん……ぁは……」
 早々にラブホテルを後にした貴子は人気が少ない公園の公衆トイレの個室で手淫に耽る。どうしても20発の32口径で爆ぜた男の頭部が何度も脳裏を嘗め尽くし、堪らず公衆トイレに駆け込んで火が付いた性欲を処理している。
 業物のナイフで皮膚や筋肉をゆっくりと裂く感触も良いが、水風船がスローモーションで破裂する様に似ている「一瞬のあの光景」は何度見ても美しいものだ。人間の頭があの様に美しく散華する瞬間は触覚から伝わる電気信号とは違った甘い電流を視覚を通じて脳髄に伝えてくれる。そして、何物も塞き止める事なく脳髄が感じた熱く震える感覚はダイレクトに貴子の胎を蕩けさせる。
 都合良く、仕事上、下着姿。今回は中学生マニアに強姦された被害者からの依頼だった。実家の経営する孫会社のラブホテルの一室を借りての仕事だった。警察の手入れや捜査を困難にする為に先日から警報や防犯カメラはオフにして貰っていた。

 仕事道具のスコーピオン短機関銃については仕事現場の確保より簡単だった。
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