短編拳銃活劇単行本vol.1

□或る夜の日常
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「で、朧月。この度の失態は査定にガンガン響く事も勿論考慮していたのだろうな?」
 声の主にして葛原研究所兼事務所の葛原真緒衣は一際占有面積が広いスチールデスクで腕を組んでコメカミに三叉路を作っていた。
 誰も実年齢は知らないが外見から推し量るに20代後半か30代前半位だろう。
 セミロングが印象的なキャリアウーマン風の鋭い眼光をした眼鏡美人ではあったが、間違えても個人的にお付き合いをしたいと思わない。悪い人でもないし黒い人でもない。仕事についても実に前向きで的確な解決策を講じる手腕などは見ていて惚れ惚れする程だ。
 自分の魔弾使いとしての才能を発掘してくれた恩人でもある訳だが、少し完璧主義が強いのか「ちょっとした」ミスも赦してくれない。
 本日出勤してくるなり猛禽が敵対動物と対峙した様な鋭い眼光で朧月円を睨みつけ、延々2時間にも及ぶ叱責の嵐。
 スチールデスクの上には昨夜の内に作製した報告書が1枚。勿論、報告内容は依頼遂行失敗に関する文書だ。
 人員不足は今に始まった事ではないが、そもそも今までの依頼を全て一人分の戦力で賄い続ける事が無理なのだ。この葛原研究所兼事務所に籍を置く魔弾使いは全部で3人。夫々が単独で依頼を遂行しなければならないと言う危険極まりないルーチン自体が間違いなのだ。
 よくもまあ、今までこの命が続いたものだ。
 円とてプロである。「何とか成る」的楽観で依頼を引き受けたりしない。
 情報収集の現場がそのまま修羅場に様変わりする事が殆どなので、どれだけ頑張っても情報収集しか出来ない一般人をこの仕事に就かせる訳にはいかない。
 ……その辺の事情を加味しても、葛原所長は容赦無く責める。声のトーンは穏やかになっても責めの本質は何も変わってはいない。
「無論、その尻拭いは自分でする積りなんだろうな? 朧月?」
――――来た
――――止めだ
「勿論です! 男が仕出かした不始末です。次は必ず仕留めて見せます」
「良し。解散……それとな」
 踵を返して安堵の溜息を漏らしている円の背中に葛原所長は思い出した様に殺傷力の有る台詞を投げつけた。
「その台詞は最終回手前の2話目で悪の幹部が必ず吐いて必ず正義の味方に返り討ちにされる縁起の悪いフラグなんだぞ」
――――!
――――来たーっ!
――――「こっち」が止めだったか!
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