短編拳銃活劇単行本vol.1
□或る夜の日常
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事実上、魔弾使いのみが悪性伝承に対抗できる唯一の存在なのだ。とは言え、少しばかり適正の有る人間の魔術師の模倣には違いなく、本当の意味での魔術師は確認されていない。
『人類』は今日もこの魔弾使いを筆頭に悪性伝承と生活する。
性質の悪い都市伝説と扱われる怪奇現象や魑魅魍魎の類『悪性伝承』と共に。
……深く。
……深く。
……静かに。
……静かに。
※ ※ ※
「チィッ」
夜更けの路地で青年は舌打ちした。
少しばかり肩で息をしながら右手に大型自動拳銃を提げて街灯の下までしっかりとした足取りで来た。
無造作な髪。何処と無く纏まりの有るヘアスタイルでトップの軟らかい立ち上がりと自然なリバースカールが、何処にでも居る二十歳前後の青年の印象を強くしていた。
左手で頭頂部を掻き毟りながら下唇を噛む。180cm近い長身だが引き締まった体躯なのか、優れた筋骨を衣服の上から窺わせない。
夜風の冷たい季節柄、薄手のフィールドコートを纏っていたが、今し方の軽いランニングで体は程よく暖まっていた。
「反則だろ……ソレ」
ここでどれだけ吐いても何の解決にもならない台詞を吐きながらベレッタM92FSの弾倉を引き抜く。弾倉に10発。薬室に1発。幸い敵は通常の弾丸2、3発で倒れてくれる。
恐ろしいのは数だ。
絶対数的に不利。持ちダマを全部投入しても討伐するのは無理。直感が語りかける前に、安物ゾンビ映画の様な目前の事実が思い知らせてくれる。
――――不本意ながら
――――今日は退散だ!
散発的に弾丸で牽制しつつ彼は遁走を選んだ。
翌日。
葛原研究所兼事務所。
都心のビルが林立する中に紛れる様に存在する一つの小規模なビル。
ここに件の魔弾使い達が屯する。
残念な事に魔弾使いと言うのは一般職と同様に台所事情も大して変わらない様だ。人員自体少ないのだから建物も小規模で十分やっていける。要は舞い込んだ仕事をこなせるか否かである。
故に昨夜、ほうほうの体で逃げ帰ってきた青年、朧月円を叱責する女性の声がそのフロアを席巻していた。
が、途端に声のトーンが一段落ちて叱責の詰る声が少し穏やかになった。人生経験から察するにこの状況は円に止めの一声を突き刺す為の溜め時間だ。