短編拳銃活劇単行本vol.1

□銃侵信仰
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 更に1週間を使い、近隣へ散策の気軽さで、脳内の2年前で止まっている交通手段や道路事情を体験する事で更新した。
 その頃には手元に『馴染み』にしている輸入骨董美術商から荷物が届いていた。
 モノはセルビア・ツァスタバ造兵廠謹製【ツァスタバM57BA】のスライドのみ。
 詰まり真製トカレフとその他、雑多なコピートカレフと殆ど無加工で共用して使えるスライドだけを送り付けて貰った訳だ。
 それは艶消しの鈍い黒をしたコンロッドスチールで拵えられた特注だったが、リアサイトが微調整可能なアジャスタブルサイトである以外にはこれと言った真新しい点は無かった。アジャスタブルサイトにしても中国製トカレフのノリンコT−NCT90と同型の物だし、材質がオフロード車のサスで多用されるコンロッドスチールと云うのも自動拳銃の世界で語るのなら、アメリカのガンスミスの間では多用される材質だ。異常に粘りが有って頑強な材質で出来たスライドに微調整可能の照準器が付いているだけの代物でしかない。
 尚、実銃の部品はある程度の部位の物なら個人でも正規ルートで輸入できるが「国内で組み立てて実射してはいけない」事になっている。砕けた表現をすれば組み立てなければ手元に銃火器を揃える事も可能だという事だ。実戦で使用された実銃を無可動美術品として加工して輸入する業者が日本国内に有るが、それはこの揚げ足取りな法律を安全に解釈して商法としているだけだ。勿論、個人で部品を輸入する場合は当局の厳しい管理と監視を受ける事になる。


「オジサン。銀ダラ、揃えてよ。ハコ(弾倉)とマメ(弾丸)、いーっぱい付けて」
 或る夜の繁華街の裏路地で、麻薬を捌いていた50代のハンチング帽を被った男に声を掛ける聡美が居た。いつも通りの不敵な態度でコニャックフレーバーの香りがする機械巻を咥えながら辺りや麻薬の買い付けにきた中毒患者を気にする様子も無く、ネオンのピンクより妖しい輝きを湛えた瞳で笑みを浮かべていた。明らかに売人に対して性的な眼光で挑発していた。声にも蛇を思わせる粘っこい艶を乗せていた。
「ガキは来るな! 向こうへ行け。さぁ、行った行った!」
 中年太りが隠せないハンチング帽の売人は聡美の瑞々しい色香に惑わされるのを恐れて掌を追い払う様に振った。
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