短編拳銃活劇単行本vol.1

□濡れそぼったリンクス
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 冷え切った家族愛に振り回される環境が嫌になって、元気一杯にチンピラ街道まっしぐら。半年前に家出をした侭、音信不通を一貫し強盗や恐喝と窃盗で生計を立てている。


 この界隈の暗黒社会では少しは名の知れた立派な犯罪者だった。


『名の知れた』とは、勿論、神綱の発育した肉欲的な躰を主に指し、神綱の人間的なパーソナル――性格・性分等――は一部の人間しか評価していなかった。
 それだけ、擦れ違う誰も彼もが神綱の肉体に己の妄想を膨らませていたと云う事だ。
 異性からは好奇な目でしか見られず、同性からは妬みと嫉みが入り混じった侮蔑の視線が投げ掛けられ、神綱自身は自分の体の発育振りを喜ばしく思っていない。満員のバスや電車に乗れば略、100%痴漢に遭遇する。
 手首を捻り上げるのは簡単だが警察に名前と顔を覚えられるのは非常に困る身分なので、「お触りの料金」として好き者を装い、痴漢にこちらから体を擦り付けて、生娘の様に恥じらいの表情を浮かべながら密かに懐やポケットを攫って財布を掏る。
 最近では高性能な小道具を用いた「スキミング」を覚えたので磁器カード類の中身を奪い、後で怨念を込めてATMから全額下ろす。痴漢の方も後ろめたい事をした結果の事なので、治安当局に駆け込む事は稀だ。


 併し、左脇だけはどんなに密集した状態でも触らせたり隙を見せたりはしない。


 護身用に購入した中型自動拳銃を忍ばせているからだ。


 薬室を含め合計14発もの9mmポリス弾を装弾する事が出来る全長170mmのワルサーPPスーパー/F2を常にショルダ−ホルスターに挿して徘徊している。
 治安が極悪化の一途を死に急ぐ様に辿り、日本でもアメリカに倣ってコンシールドライセンスの導入を正式採用し、民間人でも厳しい制限下ではあるが拳銃を所持する例も増えてきた。神綱も公安の目を誤魔化す為に完成度の高い偽造コンシールドライセンスを所持している。
 だが、日本政府が定義する「所持しても良い拳銃」から大きく離れたワルサー拳銃を忍ばせているので乱用は絶対禁物だ。一般に出回っている拳銃は全て線状痕が公安の然るべき部署に登録されている。勿論の事、神綱の拳銃は公安には登録されていない。
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