短編拳銃活劇単行本vol.1

□硝煙列島
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 日本には主としてこのエコノミーが大量に密輸されてくる。チェコスロバキアで生産されているツァスタバトカレフと中国で生産されているノリンコトカレフ事、51式自動手槍だ。
 旧ソ連製は流石にオリジナルの意地を見せ付け、工作精度鋳金錬度共に最高品質だ。実戦面でも命中精度、耐久性共良好で1970年代迄に共産圏の国々殆ど全国で正式採用されるに至った。
 ところが後述の二種に至ってはトカレフのコスト性にのみ着目した劣悪な模造品でトラブルが絶えなかった。正式採用にまで漕ぎ付けた経緯の有る逸品も確かに存在するがそんなものは稀で、流通も少ない。
 模造品の中には暴発は当たり前で酷い物になるとマガジンキャッチが有るのにも関わらずに発射の反動でマガジンが抜け落ちる物も有る。
 その様な救い様の無い欠陥商品の廃棄方法に困った国々が新しい武器の販売先として目を付けたのが日本だった。勿論、マフィアやギャング等の反社会的非合法集団を仲介役として。
 東西のバランスを失った今……両陣営に自由に往来する非合法組織が世界中に旗揚げしている昨今、金持ち大国・日本は彼らにとって非常に魅力の有るドル箱だった。オマケに暴力団と言うお得意先になる可能性の有る団体客が即戦力たる小火器を大量に所望している。
 「取り敢えずタマが出れば金に糸目は付けない」と言うではないか。
 資本主義陣営であると同時に治安国家を自称する日本の事だ。早かれ遅かれ何らかの規正法が制定されるのは目に見えている。だから「バスに乗り遅れるな」とばかりにあらゆる「ご禁制品」が様々なルートで密輸されるに至った。お陰で今は意外な程ザル法な新法の所為で行き場を失った銃火器類が堅気の人間の手に渡る始末と相成った。
 皮肉にも暴力団対策法が日本中を銃火器犯罪の飽和状態に追い込んでしまったのだ
 ……世の中、そんなモンである。
 そんな背後の事情など知る由も無いこの川原のチンピラ達は薄汚れた雑種犬を相手に射的練習と洒落込んでいる。ドラム缶でも空き瓶でも良かったのだろうが、どうせ撃つなら動く的の方が実戦に限り無く近いと言う意味でチンピラのリーダー格の男は何処からか拾ってきた白い雑種犬を的にした。首輪が付いていたがお構いなしだ。
 リーダー格の男の粋な計らいに皆は興奮する手でトカレフの射撃を楽しんだ。異常な命中精度も彼らを興奮させる一因であった。
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