短編拳銃活劇単行本vol.1

□天使と踊れ
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 そんな誰もが暗黒社会に踏み込める入り口がピンクチラシや闇金のチラシと並んで公然に晒されている。1g千円台で買える良質の大麻。軍用自動拳銃が予備弾倉2本、弾薬50発付きで1万円台で購入できる。街角の外国人やヤクザを仲介しなくともネットが発達した現代ではお互いの顔を見る事無く商談を進める事が出来る。
 現代のチンピラは357マグナムをサタデーナイトスペシャルとして携行し、不良チーマーがタイマンで殴り合いをすると云うのは過去の風景となった。勿論それに代わって往来など気にせず衆人環視の中で昼夜問わず銃撃戦を繰り広げる。
 民間人でさえホームディフェンス用にポンプアクション式ショットガンを非合法な手段で購入し、塾通いの子供に小型拳銃を持たせる。半数以上の物件は防弾ガラスを標準機能としているのも頷ける風潮だ。


 宮端台奈はそんな時代に生まれた。


 墨を流した様に艶やかな黒髪に一房だけ頭頂部から白銀髪の束が前髪に混じって垂れている……そんな短目のマッシュウルフの髪型がトレードマークだと云わんばかりの彼女は、自腹を切って中型自動拳銃モーゼルHSc/G15Mを購入した。
 予備弾倉4本と弾薬500発付けて2万5千円だったと思う。32ACP弾専用複列弾倉を中心に再設計されたモーゼルHScだ。
 これの元祖はナチス政権下のドイツで空軍将校の護身用拳銃として大量に生産され、戦後もこれと云った欠点も無く、国内は元よりヨーロッパ各国の軍や警察に暫く使われ続けた。近年になってより現代のニーズに合致したモーゼルHScモデル80(※アメリカでの商品名はモーゼルHScスーパー)を売り出したが、業績は可も無く不可も無く。詰まり今一つパッとしなかった。そこで、原点に戻って、然し現代でも通用する様にと、設計されたのが台奈が持つモーゼルHSc/G15Mだ。
 全長160mm。重量730g。装弾数32ACP弾(※7・65mm×17弾とも云う)15+1発。
 外見は全く元祖のモーゼルHScそのままだがマガジンキャッチが左トリガーガードの付け根に移動している。オリジナルは小さな撃鉄だったが指を掛け易く、懐から抜く際に衣服に引っ掛かり難いリング型ハンマーに改められている。
 反動が小さく銃口の跳ね上がりを制御し易い32ACP弾だが裏返せば威力が低いと云う事である。
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