短編拳銃活劇単行本vol.1

□天使と踊れ
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 男が何者なのかは知らない。だが正面から鈍い耀きで威嚇する獰猛な面構えをした45口径の大口径自動拳銃を向けられて命の危険を感じない人間など存在しない。


 ヨタカすら鳴かない暗い夜。
 時折、咳き込む様に点滅する街灯が一つ、二つ。
 少し肌寒くなってきた季節のと或る夜の出来事。濁った雲が月も星も覆い隠して寒々としたいつもの出来事を見なかった事にしていた。
 暫くして一筋の月光が薄く地表を舐めた時、台奈に「無力化」された男にも平等に光源が中った。
 力無く四つん這いになった侭、立ち上がる事こそ出来ないが生命活動は維持できている。
 結局はこの男は唯の路上強盗でしかなかった。
 1万円で買ったコルトガバメントのコピーと弾薬分は稼がないと元は取れない。なのに、初仕事の標的が実は自分より遥かに拳銃の扱いに長けた小娘で自分とは比べ物にならない腕前の持ち主だったと云う事は全くの計算外だった。
 結局、この男は返り討ちに有っただけの間抜けな強盗として昨今の地方版新聞の端にも報道されない小事として片付けられた。
 幸い、この強盗未遂犯は数時間後に救急車で運ばれるが腹膜炎を起こしかけて暫くの間病院生活を送る羽目となる。その後更に警察の尋問が待っている。結局、余生の間にあの夜に自分に2発の32口径を叩き込んだ小娘とは出会う事は無かった。
 少なくとも視界に入っていても気が付かなかった。

※ ※ ※


 恐ろしくザル法な新暴対法と反社会国際組織と緻密強固な連携をすると云う事を覚えた北朝鮮のお陰で国内は60年代のヤクザ映画も裸足で逃げ出す程の麻薬銃火器犯罪の潮流に揉まれていた。
 麻薬と銃火器を用いた犯罪だけでも大変だと云うのに人間の心の壊れ具合を反映する常識の範疇で収まらない箍の外れた犯罪が横行し、荒廃振りは刑事事件だけに留まらなかった。
 善良な市民までもがネットで簡単に武器・麻薬を購入できる時代に入り、何かしらの事件が起きても少しばかりの心付をその筋の人間に払えば簡単にアシを消す事が出来る。
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