『退廃少女』

□第4話:終日、酷いものだ
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「うっしゃーっ! 掛かって来いや!」
 サユは唇の端を吊り上げて喜色を隠さず、立ったまま軽くストレッチをした。
――――コンディション良し!
 相変わらず良く伸縮する筋骨に満足すると空かさず装具の動作も確認した。
――――コチラも良し! 
 電源系統も可動部位も問題無く作動している。
 義足を嵌めている右足の膝を上げて、左足一本で軽くその場でジャンプする。
 サユの目前には4人の不良。どの面も下らん人生を下らなく過ごしてきた雰囲気が滲み出ている不良の鏡だ。身体障害者に因縁を付けて多数で喧嘩をやらかそうとしている連中だ。久しぶりに「楽しく」体を動かせそうだ。
 サユは唇を舌先で湿らせた。久し振りの鉄火場に興奮を抑えられず、顔が紅潮してくる。この不良連中には全く馴染みは無かったが、一見しただけで身体障害者だと解るサユに遠慮無く因縁を付けて喧嘩に持ち込む屑っぷりだ。ならばコチラも遠慮無く手足を折らず、筋を違えさせて手足を唯の飾りにさせてやってもいい。
 アドレナリンが体内を駆け巡り、脳内麻薬が滲み出す。自称・旦那を名乗る年下のウザイ存在を忘れて今日は思いっ切り暴力を揮おう。
 健在な右手を顔の高さ位に上げて義手の左手を左腰に当てる。左足を一歩退いて合気柔術の構えを取る。
 空は新月。暗い下でサユは隻眼を爛々と輝かせて、相手の出方を待った。同年代と思われる不良連中が鉄パイプやらナイフやらを手にした途端、サユの喜色は最高潮を迎えた。こんなに「楽しい」シチュエーションは滅多に無い。鉄火場に於いて、自分の不利ですら娯楽に置き換える事を会得したサユにとっては敵の有利は料理に振り掛けるスパイスみたいなものだ。
 堂々と「潰せる」。
 何だか良く解らないフラストレーションに悩まされていた最近の蟠りを暴力に置換して吐き出す。虫の居所が悪いサユの前に現れたこの4人は全くの不幸だった。現況ではサユを喜ばせに来たその他大勢でしかない。
 受け・往なし・交し・掴みから派生する技が豊富な合気柔術では先制攻撃のカードは少ない。相手が自身の無駄な力を無駄に発揮してくれる事でサユの柔術は本領を発揮する。従って、この相手が何処からどの様に掛かってくるのか見極めるのが大事な訳だが、それですら下腹が熱く疼く程の興奮を提供する素材になっている。
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