【桜色ファンクション】

□第二話:「やがて始まる路地裏オペラ」
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 私立北賀陽高校。
 事の外名門であると云う謂れの無い普通の進学校。中流大学への進学を目指すのなら普通に選択肢として選出される高校だ。敢えて言うなら、慢性的に部活動が滞っている程、部活数が多い。部活に数えられない研究会や同好会を含めると部室の争奪は群雄割拠を呈する。余りにも部活数が多い為、放課後のトイレを部室と定める例も報告されている。傍から観ていればコメディの範疇を出ない笑い話だが、当事者からすれば死活問題である。文化系クラブは場所さえ確保出来れば鎬を削る事も出来るが、体育会系クラブが階段の踊り場を部室兼グラウンド代わりにしている様は悪い冗談では済まされない事の方が多いだろう。傑出したクラブが存在して特待生制度や進学時に優位に働く何かが発生すのであれば少しは状況が違うのだろうが、別段名を馳せる有名なクラブは一切確認されて居ない。故に、自治を預かる生徒会や顧問会でも淘汰させるべき時期とその基準の模索を繰り返すばかりでここ10年以上、状況は好転していない。
 さて、文芸部員や図書委員司書係と混ざって読書に励んでいる円城真樹は一貫してアウトロー気質な為に殺気が漂う部活動とは縁が無い。クラブ活動を否定的に捉える程の隠者では決して無い。
 普通に本を自由に読んで居たいだけなのだ。
 それも一人静かに。
 常にアウトドアウォッチとアーミーナイフを携えている彼女ではあるが、だからと言って必ずしもアクティブな性分をした活動タイプとは限らない。
 従って、日常的戦国時代な様相を見せているクラブ活動も彼女には関係無い話である。級友にして親友の樋浦美野里が所属する杖道部も専ら活動範囲が限られており屋上で素振りを繰り返している。それに関しては親友である上の感想として「大変そうだ」と感想を述べる事は出来るが、美野里自身が選んだ道に友人と云う他人が割り込むのは野暮であるのは重々承知しているので何も感慨を抱かない事にしている。
 一人静かに読書に励める筈の聖域に場の雰囲気を弁えない不埒物が復刻版の田川水泡を下らなそうに読みながら目前でハーブ園を主題にしたガーデニングハンドブックを読んでいる少女に声を掛けた。
「なあ。素晴らしい程の青春の無駄使いだな」
 少女……円城真樹は整った眉を不快に歪めると、『のらくろ三等兵』を読んでいる荒木田祐輔を一瞥した。
――――何なの? コイツ!
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