短編拳銃活劇単行本vol.1
□ワイルドキャットカートリッジ
1ﾍﾟｰｼﾞ/39ﾍﾟｰｼﾞ
柾寺義也(まさでら よしや)の非日常で普遍な死亡迄、後30分。
紺色。ボア、フード付きポリスジャンパー――中国製の安価な贋物――に袖を通したワイルドスパイスショートの高校3年生男子は道端で良く出会う特徴の無い、のっぺらな顔に珠の様な汗を浮かべながら、先程から『半日前に起きた、唯、一つの事』を何度も捲くし立てるが、彼――柾寺義也。地元高校に通う普通の不良。社会不適格者を自覚する落伍者――の話を聞く、彼の12人の仲間は誰一人として、まともに話を聞かれていない事に、そろそろ苛立ちが限界を突破しそうだった。
身長170cm体重60kgの恵まれた、だが、喧嘩以外に活用させた事の無い体躯を小さく震わせて、足元の空き缶を踏み潰した。あと少しで癇癪を起しそうな顔に為った時、彼、柾寺義也の話に漸く耳を傾ける者が出て来た。揶揄いの表情を全く隠さない小馬鹿にした顔であったが、何とか柾寺義也の臨界点は危うい地点で鎮静に向かう。
｢厭々、悪い悪い。……で、『44マグナムを振り回すオンナノコ』にケツの穴を掘られて逃げて来たって話だっけ？｣
前歯がニコチンで色を塗った様に黄色く成った少年は着衣であるパーカーの大きなカンガルーポケットに両手を突っ込んだ侭、ニヤケ顔を隠さず柾寺義也少年に『先程から何度も聞いている内容と同じ文言』を返した。
｢俺は……起きた事を有りの儘に話したぜ。処刑とか仕返しとかそんなチャチなモンじゃねぇ！ もっと箍が外れた話だ！｣
義也は震える手でポリスジャンパーの内ポケットからマイルドセブンのソフトパックを取り出した。口に銜えた侭、マイルドセブンに火が点けられない。強く握り拳を作り過ぎて指先が巧く使い捨てライターのホイールを親指で回せないのだ。
｢と、兎に角、俺は逃げる！ ちゃんと話はしたからな！ 送ったメールで納得しなかったお前らが悪いんだからな！｣
｢へぇへぇ。御忠告どうも。『茶色のコートを着た中学生』に気を付けろって事だろ？｣
前歯がニコチンで汚れたパーカーの少年は、左右の手を後腰に回し、ダブルバックサイドホルスターからデトニクス45コンバットマスターを威勢良く抜いた。其れを契機に、その場に居た大半の少年達が懐や腰から短物を抜く。撃鉄を起す、気の早い者も居た。
｢勝手にしろ！ 昨日の夜、『ガキ一人に俺以外の5人はたった5発のタマで仕留められた』んだ！｣