短編拳銃活劇単行本vol.1

□貴(たか)い飛翔
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 ズデーデン地方の訛が強い中年の男はハンチング帽を無造作に取ると、そろそろ禿げ上がり始めた頭頂部を掻きながら面倒臭そうに喋り出した。
「またソイツが入り用か? 注文通り調整は済んである」
 50代半ばのスイス系の白人は中年太りの腹がトレードマークだと言わんばかりに誇示していた。工具を挿し込む細身のポケットが沢山、縫い付けられた作業用のベストの内ポケットからスペイン製のトルコ巻煙草を取り出して咥える。
 彼の管理する敷地内での事。麗らかな青天に恵まれた、或る日の午後だ。辺りは見渡す限りの牧歌的な芝生の絨毯が広がり、地面の隆起さえも目に明るい緑の業で錯覚を起こす位に素晴らしい風景だった。
 彼がトルコ巻に使い捨てライターで火を点している間に、彼女は野晒しの木製テーブルに置かれた樹脂製のハンドガンケースを静かに開ける。
 小型の短機関銃位なら悠々と収納できる大きさのケースだったが、そこに鎮座していたのはH&K P7M13だった。
 真新しいフラットブラックの肌。
 旧西ドイツ警察用ピストルとして開発されたPSP――通称ゼロ・シリーズ――を原型として製作され、1982年から量産されてP7のモデルコードが与えられた事で有名な拳銃だ。グリップ前面のスクイーズドコッカーが特徴的なシルエットを生んでいる、ユニークな機構を組み込んだモデルだ。
「……弾は……レミントン? フィヨッキ?」
 彼女は呟く。
「お好きな様に……何処のメーカーだろうと、ハイベロシティのフルメタルジャケットなら問題無い。短機関銃用のホットケースでも全く問題無い」
 男は紫煙を吐き散らしながら女の呟きを拾って答えた。
 ベレッタのハンティングコートを羽織った女は日本人だった。
 女は静かにH&K P7M13を手に取り、スライドを思いっ切り引く。弾倉に弾薬は装弾されていない為にスライドキャッチが働いて後退したまま停止した。
 マガジンキャッチを押して2cm程弾倉を引き抜くと再び弾倉を差し込んだ。
 驚いた事に、後退したままのスライドが勢い良く作動しレシーバーを心地良く叩いた。モーゼルHScで馴染みが深いスライドオートリリース機構を取り入れてあるのだ。スライドオートリリースとは弾倉が空になると自動的にスライドが後退したまま停止し、新しい弾倉を挿し込むと自動的にスライドが前進して薬室に初弾を送り込む機構だ。
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