短編拳銃活劇単行本vol.1
□斃れる迄は振り向くな
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犯人は二人。
何故なら、現場には2種類の空薬莢が落ちていたからだ。
同口径或いは異種口径の拳銃ではない。「2挺の銃」だ。一人が「この様な」異なる銃を用いて犯行に出た等とは有り得ない、と言い張るのであれば、彼らの浅い知識では犯人に辿り着くまでもう暫くの時間が必要だった。
「……犯人は私一人でーす」
虚ろな瞳で柳原七佳(やなはら ななか)は総合ビタミン剤を一摘み程口に放り込むと、ラムネ菓子を咀嚼する様に噛み砕いた。口中に残った不快な欠片を1リットルの牛乳パックをラッパ飲みして嚥下する。
「……」
TVの画面では相変わらず、素性の知れないコメンテーターが好き勝手に視聴者受けする、そして、食いはぐれが無い様にTV局の方針に則った方面のおべんちゃらなコメントや見解しか述べていない。
七佳に関するニュースが単なる、今では珍しくない銃火器犯罪の一例として取り上げられただけで、自分の身に降り掛からなければ誰が何処でどんな死に方をし様が関係無いと思い込んでいる、頭の寒い人間供は直ぐに次の話題に切り替わった。
人が死んだニュースやトピックを沈んだトーンで読み上げておきながら、次の話題がほほえましい話題だとスイッチを切り替えた様に180度反対の表情で楽しく原稿を読み上げる。
七佳はこんな世の中の人間全てが嫌いだった。
嫌いだから全て死んでしまえ……と、呪詛を垂れ流しにする何処にでも居る普通の現代人では無い。
人間は嫌いだが、その人間が生きる権利を持っている事を七佳は知っている。
悪意の有る祈祷をモニターにぶつけるのはその人間の自由だ。それこそ、その人間が何処でどんな死に方をし様が七佳には何のダメージにも足り得なかった。
人間が生きる権利を持って生まれてきた事を、どの業界の人間よりも深く重く寂寥に浸り……そして胸の前で十字を切るより早く、拝掌で首を垂れるより早く人間の命を右から左へと押しやる事が出来る職業に就いている。
勿論、黄色い電話帳等には間違えても記載される事の無い反社会的な職業だ。
千円札一枚で雇える、世間の終末処理業『インスタント・キラー』。
昔気質な言葉で置き換えると、飼い主を持たない殺し屋だ。
今時の人間は今と昔の殺し屋の区別が付かないと言われる。