短編拳銃活劇単行本vol.1

□或る夜の日常
1ページ/17ページ

 悪性伝承。


 人間主観で言う処の正義の対極である。


 人に仇を為す「闇」全てを包括して具現化したものを指す。
 その根源は人間の意志の副産物が人間の存在する次元で顕現した本物の都市伝説だ。
 否。
 本物と云うニュアンスは「人に仇を為す都市伝説は本物」と言う所に有る。人間本来の持つ人間的感情が現在解明中の何らかの要因を通過する事によって魑魅魍魎の類に変化する。
 残念ながら人間が大好きな化学公式でその難解な化学変化は紐解く事は出来ない。今の人類では踏み込めない常識の範疇の出来事なのだ。
 その人間が無い智慧を振り絞って辿り着いた糸口はたったのそれだけ。悪性伝承を引き起こしているのは人間自体の存在。結果として人間は思念の成れの果てに捕食されてしまう対象になってしまった。
 だが、陰に潜む「闇」に畏怖を感じて遁走に固執するだけでは知性を持たぬ動物と変わりが無い。
 悪性伝承に抗う手段を有し、今現在それを解決する人間が極少数であるが存在していた。
 旧い先人達の叡智の結晶……魔術である。


 地球上で確認されている稀有な魔導書を畏敬の念を以ってページを捲った事から人間に悪性伝承に対抗する手段を授かった。
 膨大な知識量の中に記述されていた一節は悪性伝承を研究する科学者達に大きな福音を齎した。
 素質有る極めて少数の人間には魔弾と呼ばれる銃器を媒体にした炸薬……魔力を扱う能力が具わっている者が存在する。
 炸薬を撃発する機構を媒体に弾丸を撃ち出す能力……先の魔導書の存在は少なくとも15世紀の欧州で書かれた物である事が解る。勿論それは歴史書での話であって実際の起源は未だ不明。
 兎も角、人間にも悪性伝承と渡り合える人材が存在すると言うのは大きな一歩だった。
 炸薬を媒介に使用者の魔術めいた能力を弾丸に込めて撃発させる……たったこれだけの発見に研究者達は日陰の世界で想像を絶する探究心を燃やした。
 この素質を持つ人間とて完全な使い手とは限らない。研究の結果得た情報として、魔弾は人間の魂の本質、詰り生命エネルギーを魔力に転化するのだ。極論から言えば精神的休養取らずに使用し続けると云う事は、寿命と引き換えに魔弾を撃ち続ける事と同義語なのだ。
 一般的に「魔力を込めた弾丸を作って撃ち出せる人間」が『魔弾使い』と呼ばれている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ