短編拳銃活劇単行本vol.1

□銃侵信仰
1ページ/30ページ

 褐色肌でボーイッシュな彼女はコニャックの香りがする。


 176cmの長身。出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいる「豊満型」モデル体型。先月26歳の誕生日を迎えたばかりだが、前髪と後ろ髪が少し長目の活動的なショートカットと持ち前の童顔のお陰で実年齢より若く見える。
 薄い黄土色のフィールドコートに黒いジーンズパンツ……唯でさえ男装に近いファッションが似合うのに紺色無地のジャッジ帽を目深に被っているものだからポン引きに女を買わないか? と、しつこく迫られる事も有る。勿論そんな時はフィールドコートを開いてトレーナーの下で苦しそうに戒めを訴えている豊満なバストを披露する事で難を逃れる。
 フィールドコートさえ脱ぎ去ってしまえば女性らしい体型が露になって要らぬ興味を引く事は無いのだが、今の彼女は上着を脱ぐ訳にはいかなかった。


 高科聡美(たかしな さとみ)。
 それが彼女の名前。
 彼女が、蓮っ葉にフィリーズのコニャック・ブラントを横咥えにして煩雑な欲望が渦巻く繁華街に現れたのは今から3ヶ月前だった。

※ ※ ※


 洋上空港に降り立ち、久し振りに日本の煤汚れた空気を胸一杯に吸い込んで永らく空けていたアパートに直行した。
 空港から電車で30分程、駅から歩いて15分程の位置に有る安普請のボロアパートに帰宅すると部屋の空気を入れ替えて室内の水道の蛇口を全て開いて古い水を暫く押し流した。
「……」
 意味は有るが無駄に流れている様に見える蛇口の水流を暫く見つめているとつい先日までの記憶が鮮明に浮かび上がり、居た堪れない表情で蛇口を捻って水流を止めた。
――――あ……
――――ココは日本。だっけ
 翌日、部屋中の掃除で1日を潰す。
 その翌日、早くも市内の『馴染み』にしていた店に顔を出して必需品のオーダーをした。
 この時はまだ上着を着る程の寒さではなかったので身軽な出で立ちだった。
 そして、上着を必需とする必須品を所持していなかった。
 更に翌日、漸く文明人らしい生活必需品を買うべく方々へと足を運んだ。2年程国外で生活しているうちに、電化製品に恐ろしい位の進化に目を丸くしたものだ。特に携帯電話など、電話なのか携帯プレイヤーなのかテレビなのかラジオなのか電子手帳なのかパソコンなのか非常に困惑した。便利過ぎて到底全部の機能を使いこなせないと脱力を感じた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ