短編拳銃活劇単行本vol.1

□硝煙列島
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 こんな時「神は死んだ」と言い出す人間が必ず居る。知った風に言う。

 僕は言わない人間だ。宗教を語るなんて柄じゃないけど。僕は言わない。

 何故かって? うーん……難しいな。別に僕は神様を見た訳じゃない。

 「神様」って何? って考えた時に初めて出会える様な気がしたから。

 そんな事を言うと皆は僕の事を「変な奴」としか認識しない。

 けど、良いんだ。僕にとっては「神様」なんかよりずっと素敵な人間が居る。

 どうやら、その人達は僕にとって……

※ ※ ※



 JT謹製のプチコロナサイズの機械巻葉巻を中程まで灰にした「彼女」は面倒臭そうにベンチの傍に置いてあった灰皿にそれを擦り付けた。
「あー。今日も寒くなりそうだな……」
 と、一人ごちた。
 PHSをオンにして然るべき番号をプッシュする。
 全くハリの無いアンニュイな溜息と共に相手に用件を伝えだした。
「あ、もしもし……」


※ ※ ※



 夜の寒風が容赦無しに吹き荒ぶ一級河川の川原で1発の銃声がそれまでの寂れた空気を刹那だが吹き飛ばした。
 軽い、馬の蹄が駆ける様な発砲音が立て続けに風に乗る。
 その発砲音と共に小さな、人間以外の悲鳴が起きたがこれは風の泣き声に掻き消された。
 チンピラ風の男達数人が無粋な鉄塊を取り憑かれた様な顔付きで握っていた。
 手には真製の旧ソ連製トカレフを握り、慣れない手付きでハンマーを撃発位置まで倒していた。薄っすらとスライドレールに油さえ引いてあるその新品は可動部もぎこちなく作動しているのか、固そうに両手を使って難儀してハンマーを操作する者も居た。
 片手で軍用拳銃の最低採用基準である一連の動作が行える様に設計されているトカレフTT−2も三下に掛かれば唯の鉄砲玉バラ撒き機以上の働きを見せてくれるとは期待するにもおこがましい。
 7・62mmトカレフ弾を8発装填――薬室の1発を含めると合計9発――できる危ない玩具は今や全国の組織者の必須アイテムだった。
 日本中どこでも手に入る7・62mmトカレフ弾を使用できる強みに加え、スチール製で頑丈。素人でも簡単な手順でメンテナンスを行う事ができる。資本主義陣営の国で共産主義国の武器の流通が良いとは何と言う皮肉か。
 同じトカレフでも日本に密輸されてくるトカレフには大きく分けて3種類有る。一つは前述の旧ソ連製の真製トカレフで後の二つは他国でライセンス生産されたエコノミータイプだ。
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