短編拳銃活劇単行本vol.1

□ワイルドピース
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 故に神経の箍が脆い人間は指先がフェザータッチで作動すると喩えられても文句は言えまい。
 ……さて。
 其れを踏まえて。此処で今、体をジャックナイフの様に折って地面に崩れ伏せた3人は目前の標的が前述のトリガーハッピーにでも見えただろうか? 自分達が抱えたミニウージーの方がトリガーハッピーのレッテルを貼られた人間が持つに相応しい銃火器であったのに、だ。
 未だ、多数の小国でコピー生産されているイスラエルの名火器はセフティを切って有ったのに、ボルトを引いていたのに、銃口の先が標的を捉えていたのに、引き金に撃発命令が下るより早く、使用者の被弾・脱落と云う結果で到頭1発も発砲する事無く幕切れと為る。
「流石、ジェームス・パリス・リーの血族が調整したハジキだ。スライドアクションが0.5秒近く早くなっている」
 そう呟く男……と、見間違える女。ボサボサのボーイッシュショートが印象的で遠目にシルエットだけなら女とは思えない。170cmの身長に凹凸の乏しいボディライン。それで服装がファッション性に欠けるブルゾンにジーンズパンツ。
 握手でも終えた様に下げ気味な右手には古風な中折れリボルバー。
 中折れリボルバー全盛の時代には無かった金属の鈍い艶は、嘗てはコルト社の専売の如く多用されて来たロイヤルブルーフィニッシュ。
 だが。
 その凶暴な肌理を誇る拳銃は、珍品故の絶滅危惧種と評価の高いフォスベリー・オートマチック・リボルバーだ。
 リボルバーの分際でオートマチックと云う、話だけ聞いていれば実に巫山戯たアクションを取り入れた拳銃だが、その昔――1907年当時――は米国での正式拳銃トライアルにウェブリー社と提携して参戦した経歴も有る。機能的には問題無かったが、「弾倉を用いたセルフローディングでは無い」「不発時の排莢に時間が掛かる」「砂・泥・埃がスライドレールと回転ノッチに付着すると作動しない」と云う『軍用としての欠点』が目立ち、脱落する。
 それらの時代背景に見る技術面での遅れは以降のアマチュアガンスミス達の知的好奇心を煽り、統計で計れない位「製造」されて来た。
 殆ど全てのパーツを合金の削り出しから始められ、異物に依る作動不良に関しても、スターリングやステンに見られる「ボルトの作動の度にスライドレールの異物を掻き出す」工夫を踏襲した。
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