短編拳銃活劇単行本vol.1

□風よりも速く討て
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 弾薬が.32ACP迄なら問題無く操作・発砲が出来るが、9mmショートともなると、ストレートブローバックの本体では発砲に支障が出る。ガスオペレーションで不具合を発生させずに発砲するにはスライドを重くしなければならない。全長が157mmしか無いと長く屈強なリコイルスプリングを装備する事が出来ない。其処で、より固いスプリングを組み込まなければならないのだ。このクラスの拳銃ではワルサーPPK/Sが同一の問題を抱えている。コンセプトモデルのモーゼルHScでは全長が辛うじて170mm有る為にクリアしている問題である。その為に戦後に9mm口径のモーゼルHScが発売された。
 何をさせたいのか、何処に行きたいのか不明瞭なH&K HK4だが、90年代に入ってリバイバル生産される事になる。それもターゲットの欧州では無く、米国の一部の州で人気が強かった。米国では州に拠り、一人当たりの拳銃所持数が制限されているので、口径の交換が可能なH&K HK4が有れば一人で複数の拳銃を所持しているのと同じだからだ。
 斬新では有るが必ずしも商業戦略的に成功した自動拳銃ではない。この拳銃を支えているユーザーの殆どはH&K社のマニアックで独特なメカを搭載したモデルでプリンキング程度に楽しめる事が出来れば良いと考えている人間だ。従って和穂の様に掌の相性――引き金やグリップのフィーリング――が良いと云う理由で「仕事道具」と定めている人間は極々少数だろう。加えて言えば和穂がH&K HK4を相棒に選ぶ理由は、固定銃身の為に、引き金を引き絞る力さえ有れば問題無くスライドが作動して排莢出来る点も気に入っている。銃身が固定されていない……詰まり、ショートリコイルする拳銃では、膂力不足であったり、グリップの握る角度や背筋の調子自体で衝撃が体に吸収されて充分なキックが得られずに空薬莢を噛む事が有る。
「……」
 和穂は安全装置を解除すると、固く重いスライドを難無く引き、初弾を薬室に送り込んだ。
 引き金が一段、後退して小さな撃鉄が起き上がる。撃鉄が起き上がっても完全にファイアリングブロック後端が露出しない。これは棚からボタ餅な結果だが、撃鉄とファイアリングブロックの間に異物が挟み込んで打撃不良を起こさないと云う結果に繋がっている。再び安全装置を掛けるが後世の軍用拳銃の様にデコッキングはしない。
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