短編拳銃活劇単行本vol.1

□斃れる迄は振り向くな
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 無駄に整ったパーツが鏤められた美貌を端的に表現するなら……美しいと言うより魅力的、白眉と言うより知性的。だが、雑踏に紛れ込んでも誰にも気に止められない薄いメイクを心掛けている。
 優れたバランスを誇るボディラインではあるが、身体性能としての筋骨は強靭の一言に尽きる。
 性格は粗雑。無頓着。自虐的な傾向があるのか、自分の短所であれば原稿用紙を何枚にも渡って埋め尽くす事が出来る。
 『インスタント・キラー』としての特筆事項は、自動火器隆盛の今日で回転式を相棒とし、左右どちらでも支障無く扱う事ができる。
 パーソナルな経歴としては中学卒業直後に精神を病んで高校進学を諦め2年の入院。退院後、世を果敢なみカンボジアへ渡る。誰にも干渉されない静かな死を望んで生活する積りだったが、二重国境地帯の仏教寺院で寝泊りしていた或る日、内紛が勃発。大国の介入で繊細な判断が必要とされるその地域に非正規軍が投入される。たった6人で編成される特殊部隊が七佳の寺院に踏み込んだ事で事態は急転する。
 

 夫々得意な分野を修めた特殊部隊と云うのは今ではスクリーンの中だけの存在に思われがちだ。実際の戦闘で最初の一連射でリーダーが死なないとは限らない。衛生兵が死なないとは限らない。通信手が死なないとは限らない。だから、現在の「表舞台で活躍する」特殊部隊は誰が任務中に落伍しても誰でも落伍者の代わりに遂行できる様に全員が同じ能力・技能を修めた隊員で編成されている。だが、非正規戦闘に投入される少数の特殊部隊は自分達が表立って戦闘に参加する事は滅多に無い。
 彼らは自分達が修得している特殊技能を現地の親国派組織に伝授して戦闘集団を組織する。詰まり、人員による戦闘力でさえも現地で調達するのだ。
 否応無しに戦闘に巻き込まれた七佳。勿論、七佳は現地で調達出来る人員として非正規戦闘集団の一人として組み込まれた。
 銃弾が飛び交う中、頭を抱えて過呼吸発作と戦いながら泥に顔を突っ込んでいる最中に悟った七佳。
「今、自分は生と死の狭間で現実と戦っている」
 それからは心に涼風が吹いた様に世界が一転して見えた。


 3年間、カンボジアの国境地帯で転戦を続けた後、一応の終戦を見た。そして、「死に切れず」帰国。
 帰国後、すっかり様変わりした日本を睥睨して口元に卑屈な微笑みを浮かべた。
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