短編拳銃活劇単行本vol.1

□山猫は雨に跳ぶ
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 何処が出元か解らない、合成麻薬と充分な交遊費で骨抜きにされた若者はこうやって掻き集められ即席の暴力団として詰まらない人生を詰まらない死に方で幕を閉じる。


※ ※ ※



 彼女、桐野多恵 (きりの たえ)も少々拳銃の扱いが優れていると云うだけで掻き集められた有象無象の一人だった。
 先月21歳に成ったばかりだ。
 最近の若者に多い小さな頭部。精悍な輪郭に筋の通った顔のパーツが納められている。切れ長の瞳が印象的でどこかアンニュイな雰囲気が漂う。だが決して腑抜けなイメージは無く、その眼差しは山猫の様な粗野な深淵を湛えていた。まだまだあどけなさが抜けない少女の蔭が表情のあらゆる部位に見る事が出来る。
 160cmの平均的な体躯。特筆する程優れた3サイズでは無かったがバランスの取れたスタイルは素晴らしい。長目のセミロングは艶やかな明るい茶色に染めている。
 男物のデニム生地のジャケットを中心にファッションは毎日違うが、活動的な丈の短いスカートも好む。要は懐に仕舞った拳銃と弾薬が露出しなければ良い訳だ。男物のジャケットをラフに着こなしているのも脇のホルスターが目立たない様にする為だ。
 地元暴力団の息が掛かった「その他大勢」の若年層ギャング団の構成員をして毎日の糊口を凌いでいる。
 早くに家族を病気と事故で亡くして幼少の頃は施設で過していたが、馴れ合いの家族ごっこに辟易した彼女は中学卒業後15歳で施設を飛び出し、様々なアンダーグラウンドの世界を渡り歩いてきた。
 17歳の春。拳銃稼業を生業とする女ガンマンと出会ってから「少しばかり」道が外れた。
 黒いスライドに銀色のフレームを持つ一風変わったトカレフを使う長身美乳のガンマンに共産圏のみの拳銃の扱いを叩き込まれた。女トカレフ使いの余りの見事な拳銃捌きに見惚れて弟子にして下さい! と抱き付いてしまった。トカレフ使いの仕事の現場を目撃して自分が口封じに射殺されるとは塵程も頭に無かった。不器用な自分が一人で世間を生き抜くには、躊躇無い暴力が必要だと瞬間的に悟ったからだ。
 それが多恵にとっての転換の一つだった。
 女トカレフ使いにその場で即射殺されなかったのが大きな奇跡だった。
 暫し逡巡した女トカレフ使いは苦笑いを浮かべて自分の腕に抱き付いて来た小娘の脳天に押し付けた7.62mm口径の銃口を下げた。
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