【桜色ファンクション】
□第三話:「当然の事ながら、それはそれ」
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「まぁ、伝説の傭兵はコッチに置いといて……そりゃあ、下らない技術と知識ばっかりの面白みに欠ける女ですけど。ウォーノグラフィの主人公みたいに疲れも痛みも知らないヘーローズじゃないのは確かよ」
この光景も何時もの事だ。
美野里はおもちゃ箱を与えられた子供の様に溢れる興味で真樹に喋り掛けても、真樹は善良な市民的な返答しか返さない。
実の所、非凡な凡人を装う真樹の実力を「敵対勢力では無く」、目前で確認している数少ない人間に美野里が居る。何事も無い平穏で平静な生活を心から望んでそれを実践し様と心を砕いている真樹の姿を知っている人間でも有るのだ。
それでも、彼女の口から溢れる、聞いた事も無い単語や文節の数々は美野里の知的好奇心を刺激するのに充分な素材だったのだ。
そんな美野里の口の前に戸板は立てられない。
美野里の取るに足りない質問をどうしても無碍に切り捨てられない真樹。
困ったお口だ、と辟易する事は有ってもそれが原因で美野里を遠ざけてしまう考えに及ぶ事は今迄に一度も無い。
詰まる所、「心を完全に許せてしまうかも知れない親友」と云う物を真樹は両手で確りと抱きしめているのかも知れない。
真樹の交友関係は薄い。
マークスクール時代も自分の命を預けているのかも知れない訓練生を親友だとか友人だとか感じた事は無い。
戦友だ。
馴れ合いの学校ではない。
戦場に出れば同じマークスクールの同期生同士が傭兵として殺しあうかも知れない状況で黙々と技能の修得に勤しんだ。
父親以外に師匠と呼べる女性教官は居たが、真樹自身がレイプ未遂の被害者に為らなければ出会う事が出来なかった。
マークスクール時代に欲求の捌け口に真樹を求める訓練生が居たがそんな連中でも教官の前では一生徒に過ぎない。
就寝時のみ真樹だけを隔離してくれる様に取り計らってくれたスカーフェイスの女教官が居なければ真樹はとっくにミシシッピーの密林で破瓜を経験していた。
男性に対する恐怖症より女性の持つ強かさに憧れを持つ様に成ったのが切っ掛けなのか、男性の持つ男性らしさに怯む自分の心を強く嫌った。
だからと言って性的嗜好が女性に傾くと云う結果は招いていない積りだ。
「……」
「? ……どしたの?」
ふと、教材を確認していた真樹の手が止まる。
脳裏に記憶が曖昧な何かが過ぎった。