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□わからぬまま、わからぬ愛を
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「ねぇアロちゃん」
「あ?」
朝っぱらからこのオカマは気味悪い声を出しやがる。それを実際口に出すことなく、スクアーロはちらりとルッスーリアを見遣るだけで終わった。すると、彼は例のごとく小指をぐっと立て、なぜか頬を染めていて気色悪いことこの上ないのだ。
「!?」
「んふ。ねぇ…アロちゃんはボスのどこを好きになったの?」
「!」
徐徐にスクアーロに顔を近づけて僅か五秒。ルッスーリアは何の前触れもなくさらっと重要かつ一番難しいことを尋ねる。
「な、何だぁ?急に…」
「いやね、最近筋肉がつき過ぎて困ったわぁ〜って考えてたら不意にきたのよぉ」
「…」
筋肉の話からどうすればそれに行き着くんだと呆れつつ、スクアーロはルッスーリアの顔をぐいと押しやり遠ざける。いつまでも至近距離に置きたくないフェイスだ。
しかしスクアーロはルッスーリアの質問をあしらうことはしない。昔からいろいろと相談にのってくれたのは彼以外の何者でもないのだ。親友、とまではいかないが、頼れる仲間であるとスクアーロは思っている。
「…そうだなぁ」
と、彼は腕を組んで真剣に悩む。今でさえザンザスに進んで身体を委ねる関係になったわけだが、あのわがまま暴君のどこに惹かれたかと聞かれれば、いざ考えてみてもすらすらと口をついて出てこない。
「…ボスのいか―」
「怒りに惚れたってのは無しね」
「…」
「ね、よぉく考えてみて。ボスのどこが好きなのか」
「…やけにしつけぇなぁ」
「言ったでしょう?不意にきたのよ」
「何がきたんだよ」
ルッスーリアがあまりにもザンザスを好きになった理由を聞きたいと迫るものだから、いよいよ不審に思ったスクアーロは彼が頼まれてやっているのではないかと疑い始める。
「う"お"ぉい!さてはボスに聞けって言われたなぁ!?」
「んまっ!…違うわよ。疑い深いのねぇアロちゃんったら〜私個人で聞いてるの!」
「…」
スクアーロはそれでもやはり疑いの眼差しをルッスーリアに向け、押し黙る。というより、本当に考えてみても浮かんでこないのだ。なぜ、あのザンザスを好きになったのか。なぜ、今のような関係になったのか。
「…」
スクアーロが口を閉ざして数分。ようやく諦めたのか、ルッスーリアは小さく息をつくと、静かに椅子から立ち上がる。
「ごめんなさいね。どうしてもわからないことって、世の中にはあるわよね」
「…いや、こっちこそ悪いなぁ」
「いいえ。じゃあ私、これから任務が入ってるから。今のは忘れて?」
「ああ」
そうやって彼は去っていったが、忘れてと言われたところですぐになかったことには出来そうにない。ルッスーリアの質問は強烈すぎて、しばらくはスクアーロの頭から離れなかった。
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