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□なぜ男はその愛し方を選んだか
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スクアーロは長期の任務を終えてようやくアジトに帰還し、そしてその報告書をザンザスの元へ届けようと彼なりに急ぎ足で執務室に向かっている。しかし、あと数メートルで執務室の扉というところで、彼の足はぴたりと綺麗に止まった。


「…女?」


そう、女だ。見目麗しい美女と呼ぶに相応しい、それこそザンザスの好みにあてはまるような女が、スクアーロに気付くことなく執務室の扉を開いて入っていく。

彼は茫然とそれを目で追っていたが、しばらくした後にはハッとなって慌てて報告書の存在を思い出す。


「やべ、」

とスクアーロは急いで紙切れ一枚をぎゅっと握りしめ、再び歩き出す。しかし、彼はまたもや石のように固まり動かなくなる。


「…」


そう、たった今自分の目の前で、女がひとりザンザスの部屋に入っていった。いくら彼とて、これが何を指すのかはわかる。ザンザスは、これからあの女を抱くのだ。

それをいったん認識してしまったスクアーロの頭は、もはやどす黒い何かで覆われ、任務の事後報告のことなどすっかり除外される。

いつもは遠慮という言葉を知らない自分だが、今だけはそれを利用し、踵を返さざるを得ないだろう。そう判断し、スクアーロは俯いたままその場から立ち去った。




「…チッ」


ザンザスは執務室の真ん中にどんと構えるデスクの上に足をのっけ、小さく悪態をつく。それが自分に対して使われた舌打ちだと思い、来訪者である女は顔をしかめた。


「ねぇ、どうしたの?」

「…」


彼は女の問いかけに見向きもしない。加えてさらに第二弾をかまし、いよいよザンザスは本格的に機嫌が悪くなった。

返事が返ってこないからには自分からは何も言えまい。ザンザスの性格を知っている女は仕方なく引いた。この男は何かの機嫌が悪いのだ。かといっていつもはそれが良いといったらそうではない。


「…帰れ。ヤる気なくした」

「え?」


ほどなくして、ザンザスが発した言葉はそれだ。眼前の女を抱く気で彼は電話一本寄越したのだが、半刻も経たないうちに帰れとはどういうことか。


「…わかったわ」


女はすぐに踵を返した。よほど彼との付き合いが長いのか、そこらの女のように怒ってわめき散らすことはしなかったのだ。その点では、スクアーロよりも扱いやすいといってもいい。


やがて静かに閉められた扉を見て、ザンザスはやはり何かが気に入らないのか三度目の舌打ちをする。


「…」


彼は機嫌が悪い。正確に言えば、悪くなった。女が来てより数分はまだ耐えられたものの、来るべき人間がよりによって扉の向こうで引き返してしまったものだから、ザンザスはどうしようもなく苛々がおさまらない。


「…カスが」


はっきりいって、スクアーロがここに来るのを待っていた。待っていて、彼に向かって投げるための灰皿に手をかけていたくらいだ。任務の報告ももちろんなのだが、ザンザスにはこの場合私情が絡んでいる。

スクアーロが長期任務でいない間、ザンザスは毎晩違う女を抱き、補っていた。足りない彼の何かを。


「…スクアーロ」


滅多に呼ぶことのない名前。それが彼に届くことは一切なく、ザンザスはその深紅の瞳を隠した。スクアーロが綺麗だと言った、スクアーロが好きだと言った瞳を。


今頃他の幹部らに聞いているだろう。スクアーロがいない間自分がどうしていたか。しかしそれも計算済なのだ。わざとといってもいい。わざと噂好きのルッスーリアやベルに女を連れ込むところを見せ付けたのだから。

そうして嫉妬していればいいと、ザンザスは思う。ああ見えてスクアーロは女々しい奴だからと、彼は思う。

嫉妬させたところで、その後は自分の知ったことではない。スクアーロの言動に任せるだけ。彼の行動がザンザスにとって良いものであれば気絶するまで存分に抱いてやるし、気に入らないものではあればやはり殴るしかない。


―さて、あのカスザメはどう出るだろう?


「…ククッ」


ザンザスは笑う。先程までの苛々はどこへやら、ひとり笑う。これからが楽しみで仕方ない。

この理不尽な暴君は、どうにも不器用で、どうにも歪んだ人の愛し方をするのだった。








なぜ男は
その愛し方を選んだか






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XS嫉妬ネタでした。絡みがない上に会話が極限に少ないです。ワォ。


H20/4/24(木)ツブテ

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