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□笑う賢者は夢を見る
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「いててててて!引っ張るんじゃねぇ!!」

「うるせぇ」


ぴょんぴょん跳ねてしまりのないスクアーロの後ろ髪をこれでもかというくらい掴んで、ザンザスはヴァリアーのアジトである中庭を早足で横断していく。


「う"お"ぉいザンザス!オレ何かしたかぁ?」

「何も」

「じゃあ何で!理由もなくこんなことされてたまるかよぉ」

と文句を垂れつつ、スクアーロはザンザスに引きずられながら、綺麗に整備された芝生を革靴の踵部分でめちゃめちゃにしていく。本人は悪いと思いつつ、しかしこれは致しかたの無いことだと勝手に理由付けて納得する。


「…」

「う"お"ぉい、聞いてんのかぁ?」

「うるせぇってんだよ。オレの後ろで喚くな」

「!それはテメェが―」

と抵抗しかけて、スクアーロは口をつぐんだ。目の前の白いベンチに、ひとりの見知らぬ老人が座っていたからだ。

「…」

「仲が良いんだね」

と、二人に笑いかけるのだが、ザンザスにとっては腹が立つばかりだ。座りたかったベンチには既に先客が居たようで、それだけでも腹が立つのに、あまつさえその老人は自分に笑いかける。今すぐ憤怒の炎で消してやろうかと思ったが、それはしない。否、できない。


「じぃさん誰だぁ?ここがどこだかわかってそんなところに居るのか?」


ザンザスの内心など露知らず、スクアーロはやっと彼の手から離れられたと襟足部分を気にしながら、老人に気軽に話し掛けた。


「…カスが」


怒りのボルテージが更に上がって、ザンザスはついにスクアーロをその場に放置したまま来た道を引き返す。


「えっ、おい、ザンザス!?」

「うるせぇ。ついて来るな」

「!」


伸ばされた手はいとも簡単に彼に払いのけられ、スクアーロの右手は空をさ迷う。その代わりといっては何だが、スクアーロのワイシャツを大きなしわだらけの手が掴んだ。


「な、何だぁ?」


身なりのいい温厚そうな老人は、スクアーロの若干びくついたようなグレーの瞳を見て、実に柔らかく笑った。


「少し話をしないかね?」






燦燦と輝く太陽、ポカポカな陽気。綺麗に手入れが行き届いた、季節を彩る花達。実に申し分ない光景にして、スクアーロは些か居心地が悪い。なぜ、見ず知らずの老人とベンチで戯れなければならないのか。やはりついて来るなと言われても無理矢理後をついて行っていればよかったと、スクアーロは後悔せずにはいられない。


「話って何だぁ?」

「ふむ。君は…先程の少年と随分仲がよかったね」

「じいさんにはそう思えるのか?めでたい頭だなぁ」

と、スクアーロは喉を鳴らして笑う。老人はそんな彼に目を真ん丸にさせて、尋ねた。


「では、君はあの少年のことが嫌いなのかい?」

「ばっ、き、嫌いじゃねぇぞぉ!」

「ほう、」

「そりゃ理由もなく殴るわ蹴るわ我が儘放題で理不尽な奴だけどなぁ…嫌いじゃねぇよ」

「そうか」


老人はひとりでうんうん、と満足そうに頷いてみせる。そんな彼を横目で見ながら、スクアーロは顔を上げて空を仰ぐ。太陽の眩しさに切れ長な眼をぐっと細くして、スクアーロは呟いた。


「むしろ、オレは好きだけどなぁ…あいつはオレのこと、どう思ってんだか…」

「…不安なのかね」

「不安っていうか…ただ、ザンザスはオレのことどう思ってんのかなって…気になるだけだぁ」

「…」

「は、じいさんにこんなこと言っても仕方ねぇな」


スクアーロは老人を見て自嘲的な笑いを浮かべる。自分の悩みをこの老人に相談したところで、どうせ何も解決策にはならない。というのがスクアーロの見解であった。


「…ふむ、そうだな」

「?」


どうやら老人はスクアーロがくだらないと考えている間、必死で何か言おうとしていたらしい。杖を持つその手をぶらぶらとさせながら、ついに適当なアドバイスでも思い付いたのか、彼は微笑んだ。


「"もし君が人に愛されようと思うのなら、まず君が人を愛さなければならない"」

「…はぁ?」

「おや、知らないか。セネカの有名な言葉だよ」

「…知るかぁ」


首を傾げて唸るスクアーロを、老人はいつの間にか立ち上がって見ていた。そして、ザンザスが嫌っていたあの柔らかな笑顔で言う。


「そういうことだから、スクアーロ君。どうかあの子を愛してやってくれ」

「!何で名前…」

とスクアーロが慌てて問い掛けるのだが、老人は最後まで名前を明かすことなく、最後まで、微笑んでいるだけだった。








笑う賢者は夢を見る
(少年たちよ、愛を知れ、と)






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優しいじじぃバージョンでした。こう見えて若いザンスク書いてみたつもり。

H20/2/22(金)ツブテ

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