「頼む…ザンザスを、ザンザスにかけた呪いを解いてくれ!」
スクアーロがそう言って誰にも下げたことのない頭を垂れて、懇願している。
その相手は、頷きもしなければ、また首を横に振ることもしない。ただ、じっと窓の外を向き、チェアに腰掛けるばかり。しかし、やがてそのチェアをくるりと回転させると、ゆっくり口を開いた。
「残念だが、それはできない」
「!」
「お前達のやったことは、決して許されないことだよ。お前達の罪には、罰を与えなければならないのだよ」
「…っ」
スクアーロはそう言う九代目から視線を反らすことなく、むしろ見つめた。歯を食いしばって、耐えている。
九代目の子であるザンザスが起こしたクーデターは、決して表沙汰にはできない秘め事である。隠したい秘め事である。それを知るは、事件の当事者であるヴァリアー、被害者ともいえる九代目、そして関連した者達。ほんの一部の者達だけが知っているのだ。
だが、その中でザンザスが九代目によって長い眠りにつかされたことを知るは、彼を手にかけた本人とスクアーロ、他幹部達のみ。
スクアーロは、決して今回の計画が成功するとは思ってはいなかった。しかし、決して失敗するとも思っていなかった。
失敗したならば、ボンゴレに背いた者としてそれなりの処罰が下る。それは覚悟の上であった。それなのに、今におかれている状況は、何という悲劇。
九代目によって凍らされたザンザス。彼は紛れも無く、生きている。生きているのに、彼の時は止まってしまった。
「あれが…あれが罰だっていうのかよぉ…!」
「…」
「あんな風にしてしまうくらいならっ…いっそのこと―」
「殺してしまえばよかった、かね?」
「!」
「凍らせてしまうくらいなら、殺してしまえばよかったかね?」
九代目は絡ませた自身の指を眺めながら、スクアーロに問い掛ける。一方の彼は、ようやく九代目から目を反らし、下を向いて、ただ、唸るように「違う」と答えた。
咄嗟にそう言ってしまいそうになったのは否めない事実。しかし、やはり死ぬよりは生きていてくれた方が良いに相違ない。死ぬより辛い選択を、ザンザスは選ばされた。そう思って相違ない。
「…君がどれほどザンザスを大切に思ってくれているのか、私は知っている。君がどれだけあの子を愛してくれているかも、私は知っている」
「なら、何故―」
「だから、殺さなかった。あの子には死ぬより辛い罰を、君には愛する者を奪われるという哀しい罰を、それぞれに与えたつもりだよ」
「…」
スクアーロが一言も発さなくなったのをみて、九代目はふう、と憐れみにも捉らえられるため息を漏らす。
「とにかく、君の願いを聞き入れることはできない…だが間違いなく、あの子は生きている。もしかしたら、気の遠くなる程の歳月をかけて、君の元に戻ってくるかもしれない。あるいは私が―…」
と言いかけて、九代目は自分の発言にハッとし、何を思ったのか瞼を閉じてザンザスの姿を思い浮かべる。あるいは、何だと言いたいのか。
スクアーロはそれを理解することはなかったが、九代目に「帰りなさい」と優しく言われ、絶望で満たされた重い身体を引きずるようにして部屋を後にした。
しかし、これはあとで気付いたことだが、歴代ボスの中でも温厚で知られる九代目。その彼が、スクアーロと話している間、いつものように微笑みかけることは、決してなかった。
ただ同情にも似通った眼差しを、始終、スクアーロに送ってはいたが。
拙い彼等は夢を見る
(いつかまた、ふたりで共に在ることを)
→後書き