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□僕は知らない
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「こらこら、暴れ回るなキョーヤ!」
「…」
「うわっ、お前ちゃんと零さないで食えよ」
「ねぇ、」
「くすぐってぇ!顔舐めんなキョーヤ〜」
「…」
「ねぇってば」
「ん、何だ恭弥?」
「それ、何」
毎日のように屋上にやってくるディーノとロマーリオ。修業と称して対峙する日々が続く。だが雲雀には、今日は何かが違うように思えた。
「…」
というか、何かがいる。雲雀は目を細め、ディーノの腕の中にいる物体をまじまじと眺める。
「…」
「どうした?」
「君がどうした」
素速いツッコミを入れ、雲雀は綻んでだらしの無いディーノが先程から抱える物体を指差した。
「これ?可愛いだろ?ここに来る時道端で拾ったんだよ」
「ふぅん」
適当な相槌を交わしながら、雲雀はソレを横目で見遣る。猫だ。その物体は猫だった。いや、仔猫という方が正しいかもしれない。ディーノの腕の中にすっかり収まったその仔猫は、時折「にゃあ」と線目になって鳴きながら気持ち良さそうに彼に懐いている。
「どうでもいいけど、校舎内にソレ入れないでくれないかな?」
「ええっ!ダメか?」
「ダメだね」
それを聞いた途端の、ディーノの眉が垂れ下がり、その場に座り込んでしまった。
「可愛いのになー…捨てられてたんだぜ?」
と、上目遣いで雲雀を見上げるが、当人はそれを無視してすたすたと屋上の広い方へと行ってしまう。
「ちょ、恭弥!?待てよ!」
猫を抱えたまますぐに立ち上がり、焦ったように後を追い掛けた。が、前を歩く雲雀の足が突然止まる。
「恭弥?」
「さっき―」
「ん?」
「ソレの事なんて呼んでた?」
「え…いや、うーん…」
「ねぇ」
途端に黙り込んだディーノ。片方の手で猫を抱き、もう片方は困ったように人差し指で頬をカリカリと掻いている。
「…」
言葉を選んでいるのだろう。口を開けては閉じ、の繰り返しで、尚且つ目が泳いで宙を巡っている。その様子を見て雲雀はふぅ、と盛大に深い溜め息をついた。聞き間違いでなければ、先程この金髪はその猫を「キョーヤ」と呼んでいた。恭弥、と。
その旨を挙動不振の彼に伝えると、ディーノは照れたように笑ってこう言った。
「名前付けようと思ってな、そしたら"恭弥"が真っ先に浮かんできたんだ」
「…あ、そう」
幾分遅れて出た言葉は、いつもより少し違うもののように感じられた。
「あれ?喜ぶかと思ったんだけとな」
と、不思議そうな様子で首を傾げるディーノ。「嬉しい」と、あの彼が言うとでも思っていたのだろうか。
「邪魔だよソレ。それより、今日もやるんでしょ?」
二つのトンファーを構え、ディーノと向き合う。しかし彼は、
「え、ちょ…恭弥?そんな昼間から大胆だなー」
と、嬉し恥ずかしそうに俯くディーノ。頬を赤らめつつ、なんとカチャカチャとベルトを外し、脱ごうとしている。
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