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□その最果てに
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スクアーロの大きな声に、室内は一瞬静かになる。言葉を遮られ、ベルはハッと息を飲んだ。
「ザンザスは生きてる。オレは待つぞぉ…奴が目覚めるまで」
「ずっと、いつまでも?」
「ずっとだぁ。何年経っても、何十年経っても。オレには、アイツしか居ねぇんだ」
「…」
決して変わる事のないその意思に、ベルは酷く顔を歪ませる。
「じゃあ王子のものになるとか…そういう気はないわけ?」
刹那。目を見開き驚いた表情を見せるが、スクアーロはすぐに口角をつり上げ、
「ないなぁ…」
「…」
ふっと脱力感がベルを襲い、顔をスクアーロの胸にうずめる。
「う"お"ぉい!」
頭を退かそうにも両手を押さえられては抵抗もできない。スクアーロは軽く悪態をつくが、その時ベルの肩が震えているのに気付く。
「…ベル?」
「…らさ、少しでいいからさ、オレのものになってよ。ずっとじゃなくてもいい。ほんの少しでもいい!ボスが帰ってくるまで…なぁ、スクアーロ」
「…」
悲痛な訴えに、スクアーロの顔から笑みは消え、代わりに眉間のしわが増えて、いかんともし難い気持ちに囚われた。しかし、スクアーロの決意は変わらない。
「…何度も言わせるんじゃねぇぞぉ…オレはザンザスのものだ。心も、身体も。髪から爪先まで、総て。総てあいつのものだ」
「…」
ベルはそう言う彼の拘束を解き、代わりにギュッと胸元のワイシャツを強く握った。しわになるくらいに、強く、強く。できるだけの力をこめて。
怒りを表しているのではない。悔しいのだ。ただ、欲しかったものはなんでも手に入ってきたベルが、唯一手に入れられないモノがあって、悔しいのだ。
「…悪いなぁ」
「謝んなカスザメ…」
ベルの頭は相も変わらずスクアーロの胸に位置している。申し訳なさそうに笑うと、スクアーロは自分の上で肩を震わす同僚の背中をぽんぽん叩いてやった。
「…なぁスクアーロ」
「何だ?」
「もうちょっとだけこうさせてよ。すぐ、終わるからさ…」
「…」
そう言う彼の頬を濡らすものが何であるかは、知らないことにしておこう。
その最果てに
(彼らは何を見出だすというのだろう)
H19/7/9(月)ツブテ