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□その最果てに
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「よく毎日、飽きもせず行くよな」
無言で颯爽と大広間から消えたスクアーロの後ろ姿を目で追いながら、ベルは半ば呆れて毒づいた。
「そう言わないのベルちゃん。あの子はね、ボスを待っているだけなのよ」
と、小指を立てて紅茶をすするルッスーリア。サングラスのせいか彼の表情は伺えないが、その瞳は悲哀に満ちていた。
「待ってるったって…目覚めるかどうかもわかんないじゃん。生きてるかどうかもわかんないじゃん。なのにさ、馬鹿だろアイツ」
「スクアーロは待つわよ。いつまでも…ボスが目覚めるまで、ね」
ドンドン、という無遠慮で荒々しいノック音が聞こえ、部屋の主であるスクアーロは重い足取りで扉へと向かった。
「誰だぁ?」
ガチャ、とドアを開けるとそこには見知った同僚の顔が。その同僚は部屋の主を見ると、いつもの笑い方をしながら、またもや無遠慮にすたすたと中へと入ってゆく。
「う"お"ぉい!勝手に入るなベル!」
「いいじゃん別にー」
傍若無人な金髪王子・ベルはドカッとベッドへ腰掛けた。綺麗にメイクしてあったシーツも、彼のお陰で一瞬にして台なしとなる。
「何の用だ?」
「うわ、用がないと来ちゃいけないわけ?」
スクアーロの尋ね方に頭にきたベルは、瞬時にナイフを取り出し投げつける。
「危ねぇぞ!」
スクアーロはそれを軽々とかわすと、苛立ちを含んだ様子でベッドへ近付く。
「何?」
「用がないなら帰れ。オレは今、気分が悪いんだ」
眉間にシワいっぱいの彼を見上げるベル。怒りの中に深い哀しみが混ざった、そんな瞳。彼は思う。以前のようなあのギラギラした、鋭くて、尚且つ新鮮な眼差しは今やとうに失われていた。
それを奪ったのは、ボンゴレ九代目。ベルはザンザスを凍らせた彼に、スクアーロをこのように哀しませる彼に言いようのない憎悪を抱いていたわけだが、何故だろう、少しホッとしてしまっている自分がいることに気付いていた。
「スクアーロ」
「あ?」
スクアーロが不意に視線を落としていたのを幸いに、ベルは隙をついてその銀糸を引っ張り勢いよくそのままベッドへ押し倒す。
「!」
「ししっ、隙だらけ!」
「…」
「抵抗しないんだ?」
ベルはスクアーロを組み敷いたまま、不敵に笑う。
「くだらねぇことしてんじゃねぇぞぉ。さっさと退け」
「やだね」
ベルは力を強めて更にスクアーロの手首を圧迫した。
「スクアーロさ、髪伸びたよなー」
キラキラと月の光りに照らされて煌めく銀色を、そっと撫でながら呟く。
「知ってるよ。ボスの為に伸ばしてるんだろ?」
「ベル」
「でもさ、意味なくね?だってボスは―」
「ベル、」
「ボスは生きてるかどうかもわかんないんだよ?なのに―」
「ベル!」
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