text
□寂しがり屋な僕らは
2ページ/2ページ
「ボス、早くしねぇと先方に待たせてあるんだぜ!」
「わかってる!」
ディーノは作成中だったメールを保存するより先に、反射的に消去し、携帯をポケットに突っ込む。そして上着を羽織り、早足で車に乗り込んだ。そんな日々が、積み重なるようにまた一週間続いた。
「オレも恭弥のこと言えなくなっちまったな…」
そんなディーノの空しい呟きは、どんよりとした暗い空へと飲み込まれ消えていってしまった。今では毎日していた電話やメールも、雲雀に届けられることは、ない。
「…」
雲雀は携帯の画面をじっと、見つめている。ディスプレイには受信メールなし、という虚しい文字が浮かぶ
「…気に入らないな」
「ん、なんか言ったか?」
後ろから山本が覗き込んで、相変わらず人懐っこい笑みで様子を伺ってきた。
「…何でもないよ。向こう行ってくれる?群れるのは嫌いだ」
「ハハハ、相変わらずなのな」
爽快に笑いながら山本はその場を離れる。それを見届けると、雲雀はまた携帯に視線を落とす。
「…」
何ともいえない気持ちがこの時彼の胸に沸き起こったが、雲雀はそれをはっきり決めることも出来ず、ただ対処に困っていた。
「…終わった」
さっきまで山積みになっていた書類がすっかりなくなって、デスクを殺風景にしている。その殺風景さが、今はディーノにとって、すごく嬉しい。
「やべっ肩凝ってきた…」
ポキ、ポキと肩をほぐす度に音をたてて鳴る。もう歳か、などと冗談半分にディーノは苦笑していた。
――その時だった。
コンコン、と扉を叩く音がディーノの耳に入る。
「ボス、お客さんだぜ」
「客?」
ディーノの質問に返ってくる言葉もなく、扉は開かれ、室内に入ってくる。
「!」
ディーノは扉が開かれた瞬間、言葉を固まる。ロマーリオの隣に居たのは―‥
「恭弥…」
雲雀がそこに、立っていた
「な、なんでお前が?」
ディーノはしばらく呆気にとられていたが、やがて直ぐさま席を立ち、扉に向かって歩き出す。
「何、来ちゃいけない?」
と、来て早々に雲雀は不機嫌オーラを醸し出す。
「そんな訳ないだろ?むしろ…嬉しい」
自分でも顔が綻ぶのがわかっていた。そう、素直に嬉しいのだ。雲雀がキャバッローネの屋敷に来ることなど皆無に近かったから、驚いたのもあるが、考えれば雲雀は誰でもない、自分に会いに来たのだ。そう思うと、笑みが自然と零れ落ちる。
「ふぅん…」
雲雀はディーノを一瞥すると、近くのソファに腰を降ろした。
「本当にどうしたんだよいきなり…」
「別に。近くまで用事があってきたからついでだよ、ついで」
ついで、に妙な見栄を感じるが、そこは敢えてスルーしておこう。今、自分の目の前に恭弥が居る。それでディーノには十分。彼は幸せを噛み締めるかのように雲雀を引き寄せ、自らの腕の中におさめた。
「…何笑ってるの」
「べつに〜何でもねぇよ」
ぎゅう、と更に力を加えて抱いて、ディーノは雲雀の温もりやらなにやらを感じる。
「…苦しいんだけど」
「気にしない!…そーいや用事は済んだのか?」
「…もう済んだよ」
「そっか」
ディーノは背中に回された腕に、更に顔がニヤついてしまう。無意識でやっているのか、それとも―‥
「…ねぇ、だから何笑ってるの」
「だから気にすんなって」
「そういえば、仕事は終わったの?」
雲雀はディーノの懐から頭を出し、デスクを見遣る。
「ああ、今終わったところだぜ。恭弥は?まだ予定があるのか?」
と、ディーノは不安げに、かつ遠慮がちに聞いてみる。すると雲雀は少し口角を上げて笑った。
「用事はもう済んだよ。全部ね」
「そっか…よかった」
「何が?」
「いや、これから愛を確かめ合おうと思ってな」
「…よくそんな台詞真顔で言えるね」
そう言って眉をひそめた雲雀の表情が、何故だか無性に愛おしく思えてしまったディーノだが、敢えて言わないでおいた。
寂しがり屋な僕らは
(いつもすれ違いを続けてた)
.