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□寂しがり屋な僕らは
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「ボス、早くしねぇと先方に待たせてあるんだぜ!」

「わかってる!」


ディーノは作成中だったメールを保存するより先に、反射的に消去し、携帯をポケットに突っ込む。そして上着を羽織り、早足で車に乗り込んだ。そんな日々が、積み重なるようにまた一週間続いた。


「オレも恭弥のこと言えなくなっちまったな…」


そんなディーノの空しい呟きは、どんよりとした暗い空へと飲み込まれ消えていってしまった。今では毎日していた電話やメールも、雲雀に届けられることは、ない。









「…」


雲雀は携帯の画面をじっと、見つめている。ディスプレイには受信メールなし、という虚しい文字が浮かぶ


「…気に入らないな」

「ん、なんか言ったか?」


後ろから山本が覗き込んで、相変わらず人懐っこい笑みで様子を伺ってきた。


「…何でもないよ。向こう行ってくれる?群れるのは嫌いだ」

「ハハハ、相変わらずなのな」


爽快に笑いながら山本はその場を離れる。それを見届けると、雲雀はまた携帯に視線を落とす。


「…」


何ともいえない気持ちがこの時彼の胸に沸き起こったが、雲雀はそれをはっきり決めることも出来ず、ただ対処に困っていた。








「…終わった」


さっきまで山積みになっていた書類がすっかりなくなって、デスクを殺風景にしている。その殺風景さが、今はディーノにとって、すごく嬉しい。


「やべっ肩凝ってきた…」


ポキ、ポキと肩をほぐす度に音をたてて鳴る。もう歳か、などと冗談半分にディーノは苦笑していた。


――その時だった。


コンコン、と扉を叩く音がディーノの耳に入る。


「ボス、お客さんだぜ」

「客?」


ディーノの質問に返ってくる言葉もなく、扉は開かれ、室内に入ってくる。


「!」


ディーノは扉が開かれた瞬間、言葉を固まる。ロマーリオの隣に居たのは―‥




「恭弥…」


雲雀がそこに、立っていた


「な、なんでお前が?」


ディーノはしばらく呆気にとられていたが、やがて直ぐさま席を立ち、扉に向かって歩き出す。


「何、来ちゃいけない?」

と、来て早々に雲雀は不機嫌オーラを醸し出す。


「そんな訳ないだろ?むしろ…嬉しい」


自分でも顔が綻ぶのがわかっていた。そう、素直に嬉しいのだ。雲雀がキャバッローネの屋敷に来ることなど皆無に近かったから、驚いたのもあるが、考えれば雲雀は誰でもない、自分に会いに来たのだ。そう思うと、笑みが自然と零れ落ちる。


「ふぅん…」


雲雀はディーノを一瞥すると、近くのソファに腰を降ろした。


「本当にどうしたんだよいきなり…」

「別に。近くまで用事があってきたからついでだよ、ついで」


ついで、に妙な見栄を感じるが、そこは敢えてスルーしておこう。今、自分の目の前に恭弥が居る。それでディーノには十分。彼は幸せを噛み締めるかのように雲雀を引き寄せ、自らの腕の中におさめた。


「…何笑ってるの」

「べつに〜何でもねぇよ」


ぎゅう、と更に力を加えて抱いて、ディーノは雲雀の温もりやらなにやらを感じる。


「…苦しいんだけど」

「気にしない!…そーいや用事は済んだのか?」

「…もう済んだよ」

「そっか」


ディーノは背中に回された腕に、更に顔がニヤついてしまう。無意識でやっているのか、それとも―‥


「…ねぇ、だから何笑ってるの」

「だから気にすんなって」

「そういえば、仕事は終わったの?」


雲雀はディーノの懐から頭を出し、デスクを見遣る。


「ああ、今終わったところだぜ。恭弥は?まだ予定があるのか?」

と、ディーノは不安げに、かつ遠慮がちに聞いてみる。すると雲雀は少し口角を上げて笑った。


「用事はもう済んだよ。全部ね」

「そっか…よかった」

「何が?」

「いや、これから愛を確かめ合おうと思ってな」

「…よくそんな台詞真顔で言えるね」


そう言って眉をひそめた雲雀の表情が、何故だか無性に愛おしく思えてしまったディーノだが、敢えて言わないでおいた。








寂しがり屋な僕らは
(いつもすれ違いを続けてた)








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