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□メフィストフェレスの止まらない微笑み
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巧い嘘をついて友人を先に帰らせ、誰もいなくなった教室には少年、二人。ひとりは机上に座り、もうひとりは窓際にて外の様子を眺めてはニコニコして。それでも彼から放たれる雰囲気がどこと無く重く感じられるのは、一体どういう訳か。


「―で、何だよ話って」

机上に腰掛けた方の少年はチッ、と舌打ちをして懐から未成年あるまじき煙草を取り出した。


「それやめろよ、獄寺」

「…」

獄寺と呼ばれた少年は再びの舌打ちをすると、やけに素直に煙草をしまい込む。


「な、あのさ獄寺」

「あ?」


ここでようやく山本の顔を見た獄寺。吸いたかった煙草を遮られ、彼は些か足を揺すりながらイライラに耐えているようだった。


「ハハッ、完璧ニコチン中毒なのな」

などと苦笑しながら山本は目線を室内へと戻す。


「なぁ、獄寺」

「!」

山本は笑っている。笑っているのだが、何故、どうしてこの時獄寺は一刻も早くこのふたりだけの教室から立ち去りたい、と強く望んだのか。

「な、なんて顔してやがる」

「何か、変か?」


眼だ。山本の、その絶対零度の冷たい眼。これが原因だと獄寺はその瞳を見ることでたった今確信した。俗にいう、眼は笑ってないという奴である。背中に伝わるひんやりした汗を感じて若干身震いしながらも、獄寺は用件を聞こうと努めた。

「で、さっきから何が言いたいんだよ、お前は?」

「…」

「おい」

「昼休み…」

「は?」

「昼休み、あいつと何話してた?」

「あいつ?」

「そ、なんか楽しそうに話してただろ」

「…」

「ああ、」

獄寺は昼間の記憶を辿って、彼の言う"あいつ"の正体を掴めた。


「斎藤か。でも別に楽しそうになんかしてねぇよ、アレはただ――」

「でも笑ってた、だろ?」

「!」

山本は終始笑みを崩さず、一歩、また一歩と獄寺との距離を縮めていく。

「楽しそうに、笑ってただろ?」

「…何が言いてぇんだよ」

山本の尋常ならぬ質問の仕方に、元からの眉間のシワがますます増えてゆく。

「なぁ、獄寺。お前はオレが同じ空間にいるのに、近くにいるのに…そのオレを差し置いてあいつと楽しそうに笑うわけ?」

「…ハッ」

ずっと強張ったままの獄寺だったが、その言葉を聞くことで何かを取り戻し、鼻で嘲笑った。

「てめぇ…まさか嫉妬してやがるのか?」

「嫉妬…してるのかもな」






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