NOVEL
□休息
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キィ……
一瞬前まで無音だった部屋に、申し訳なさげに響く微かな金属音。
その音に引き上げられて、眠りの淵に一瞬手をかけた。
気のせいか、とまたゆっくり水面に沈みかけたが、
―――きし…っ
僅かに身体が沈んだ感覚で、覚醒した。
「……ん…?」
重たい瞼を持ち上げると、もとより薄暗かった視界が僅かな空間だけ暗さを増していた。
「あぁ、悪い。起こしたか?」
未だ眠りから覚めぬ頭。状況を掴めないジェイドの頭上に、耳慣れた声が降って来た。
「へ、いか…?」
もぞ、と頭を動かすと、視界の端で微かな光を受けて金色の髪が揺れた。
肩ごと振り返ると、ベッドに両腕を預けたピオニーが自分を見下ろしていた。
しぱしぱと瞬きを繰り返す自分を、碧い瞳が見つめ返す。覗き込む目は、子供をあやすように細められていた。
「どうして、ここに…?」
軽く頭を振りながら上半身を起こすと、ピオニーはベッドの端に腰を下ろした。
「いや、執務室に行ったらお前の姿が見えなくてな。探し歩いてたら、アスランがここだって言うから」
―――カーティス大佐なら、仮眠室だと思いますよ。さっきあちらへ歩いていくのを見掛けましたから。
……昨夜見回りをした時、彼の部屋はまだ明かりが付いていましたからね。睡眠不足なんじゃありませんか?
執務中にジェイドが休憩を取るなど珍しい。
何かあったのか、と訝しるピオニーに、アスランは苦笑いでそう返した。
いち部下ばかり他に例になく気にかける国王を諌めるのは、諦めたようだった。
「私を探していた?…何か、書類に不備でもありましたか」
今朝渡した書類は何だったろう。
ようやくはっきりしてきた頭を廻らせる。
それとも、何かご質問ですか?
首を傾げて問い返すジェイドに、ピオニーは「違う違う」と軽く手を振って答えた。まだ寝ぼけ眼のジェイドの頭にその手を乗せて、くしゃ、と髪を掻く。
「お前の顔が見たくなっただけだ」
口角を上げ、笑みの形を作って。
「――…っ何をおっしゃってるんですかっ」
「お、赤くなって。照れたか?珍しい」
「照れてませんっ!寝言は寝てからおっしゃって下さい」
さらりと言ってのける睦言。いつものことなのだが、ジェイドの方には残念ながらまだ免疫が出来ていなかった。
頬が熱くなるのを感じて慌てて顔を背けたが、それも遅かったらしい。
くつくつと、背中にピオニーの笑い声が当たる。