□『手袋を買いに』
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子狐はびっくりして、雪の中にころがるようにして十米も向こうへ逃げました。
何だろうと思ってふり返って見ましたが何もいませんでした。
それは樅の枝から雪がなだれ落ちたのでした。
まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。
間もなく洞穴へ帰って来た子狐は、
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」
と言って、濡れて牡丹色になった両手を母さん狐の前にさしだしました。
母さん狐は、その手に、は――っと息をふっかけて、ぬくとい母さんの手でやんわり包んでやりながら、
「もうすぐ暖くなるよ、雪をさわると、すぐ暖くなるもんだよ」
といいましたが、かあいい坊やの手に霜焼ができてはかわいそうだから、夜になったら、町まで行って、坊やのお手々にあうような毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。
暗い暗い夜が風呂敷のような影をひろげて野原や森を包みにやって来ましたが、雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮びあがっていました。
親子の銀狐は洞穴から出ました。
子供の方はお母さんのお腹の下へはいりこんで、そこからまんまるな眼をぱちぱちさせながら、あっちやこっちを見ながら歩いて行きました。
やがて、行手にぽっつりあかりが一つ見え始めました。
それを子供の狐が見つけて、
「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのねえ」
とききました。