□赤い盾、黒い盾
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すると大多根子は、
「私は大物主神のお血筋をひいた、建甕槌命(たけみかづちのみこと)と申します者の子でございます」
とお答えいたしました。
それというわけは、大多根子から五代もまえの世に、陶都耳命という人の娘で活玉依媛(いくたまよりひめ)というたいそう美しい人がおりました。
この依媛があるとき、一人の若い人をお婿さまにしました。
その人は、顔かたちから、いずまいの美しいけだかいことといったら、世の中にくらべるものもないくらい、りっぱな、りりしい人でした。
媛はまもなく子供が生まれそうになりました。
しかしそのお婿さんは、はじめから、ただ夜だけ媛のそばにいるきりで、あけがたになると、いつのまにかどこかへ行ってしまって、けっしてだれにも顔を見せませんし、お嫁さんの媛にさえ、どこのだれかということすらも、うちあけませんでした。
媛のおとうさまとおかあさまとは、どうかして、そのお婿さんを、どこの何びとか突きとめたいと思いまして、ある日、媛に向かって、
「今夜は、おへやへ赤土をまいておおき、それからあさ糸のまりを針にとおして用意しておいて、お婿さんが出て来たら、そっと着物のすそにその針をさしておおき」と言いました。
媛はその晩、言われたとおりに、お婿さんの着物のすそへあさ糸をつけた針をつきさしておきました。
あくる朝になって見ますと、針についているあさ糸は、戸のかぎ穴から外へ伝わっていました。
そして糸のたまは、すっかり繰りほどけて、おへやの中には、わずか三まわり輪に巻けた長さしか残っておりませんでした。
それで、ともかくお婿さんは、戸のかぎ穴から出はいりしていたことがわかりました。