□満潮の玉、干潮の玉
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 おあにいさまの命も、山のりょうにはおなれにならないものですから、いっこうに獲物がないので、がっかりなすって、弟さまに向かって、

「わしのつり道具を返してくれ、海のりょうも山のりょうも、お互いになれたものでなくてはだめだ。さあこの弓矢を返そう」

とおっしゃいました。

 弟さまは、「私はとんだことをいたしました。とうとう魚を一ぴきもつらないうちに、針を海へ落としてしまいました」

とおっしゃいました。

するとおあにいさまはたいへんにお怒りになって、無理にもその針をさがして来いとおっしゃいました。

弟さまはしかたなしに、身につるしておいでになる長い剣を打ちこわして、それでつり針を五百本こしらえて、それを代わりにおさしあげになりました。

 しかし、おあにいさまは、もとの針でなければいやだとおっしゃって、どうしてもお聞きいれになりませんでした。

それで弟さまはまた千本の針をこしらえて、どうぞこれでかんべんしてくださいましと、お頼みになりましたが、おあにいさまは、どこまでも、もとの針でなければいやだとお言いはりになりました。

 ですから弟さまは、困っておしまいになりまして、ひとりで海ばたに立って、おいおい泣いておいでになりました。

そうすると、そこへ塩椎神という神が出てまいりまして、

「もしもし、あなたはどうしてそんなに泣いておいでになるのでございます」

と聞いてくれました。
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