□第三部 マリユス
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     二 その特徴の若干

 パリーの浮浪少年は、小なる巨人である。

 何ら誇張もなくありのままを言えば、この溝の中の天使は時としてシャツを持ってることもあるが、それもただ一枚きりである。

時としては靴を持ってることもあるが、それも底のすり切れたものである。

時には住居を持っていて、母親がいるのでそれを愛することもあるが、しかし自由だからと言って街路の方を好む。

独特の遊びがあり、独特の悪戯がある。

そしてその根本は中流市民に対する憎悪である。

また独特な比喩がある。

死ぬことを、たんぽぽを根から食うという。

また独特な仕事を持っている。

辻馬車を連れてき、馬車の踏み台をおろし、豪雨のおりに街路の一方から他方へ人を渡してやっていわゆる橋商売をなし、フランス民衆のためになされた当局者の演説をふれ回り、舗石の間を掃除する。

また独特の貨幣を持っている。

往来に落ちてる種々な金物でできてる不思議な貨幣で、ぼろと言われていて、その小さな浮浪少年の仲間にごく規則だった一定の流通をする。

 最後に、彼らは独特な動物を持っていて、すみずみでそれを熱心に観察する。

臙脂虫、油虫、足長蜘蛛、二つの角のある尾を曲げて人をおびやかす黒い昆虫の「鬼」。


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