□『手袋を買いに』
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 寒い冬が北方から、狐の親子の棲んでいる森へもやって来ました。

 或朝洞穴から子供の狐が出ようとしましたが、

「あっ」

と叫んで眼を抑えながら母さん狐のところへころげて来ました。

「母ちゃん、眼に何か刺さった、ぬいて頂戴早く早く」

と言いました。

 母さん狐がびっくりして、あわてふためきながら、眼を抑えている子供の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。

母さん狐は洞穴の入口から外へ出て始めてわけが解りました。

昨夜のうちに、真白な雪がどっさり降ったのです。

その雪の上からお陽さまがキラキラと照していたので、雪は眩しいほど反射していたのです。

雪を知らなかった子供の狐は、あまり強い反射をうけたので、眼に何か刺さったと思ったのでした。

 子供の狐は遊びに行きました。

真綿のように柔かい雪の上を駈け廻ると、雪の粉が、しぶきのように飛び散って小さい虹がすっと映るのでした。

 すると突然、うしろで、

「どたどた、ざーっ」

と物凄い音がして、パン粉のような粉雪が、ふわーっと子狐におっかぶさって来ました。
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