□朝鮮征伐
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一
仲哀天皇は、ある年、ご自身で熊襲をお征伐におくだりになり、筑前の香椎の宮というお宮におとどまりになっていらっしゃいました。
そのとき天皇は、ある夜、戦のお手だてについて、神さまのお告げをいただこうとおぼしめして、大臣の武内宿禰をお祭場へお坐らせになり、御自分はお琴をおひきになりながら、お二人でお祈りをなさいました。
そうすると、どなたか一人の神さまが、皇后の息長帯媛のおからだにお乗りうつりになり、皇后のお口をお借りになって、
「これから西の方にあるひとつの国がある、そこには金銀をはじめ、目もまぶしいばかりの、さまざまの珍しい宝がどっさりある。つまらぬ熊襲の土地よりも、まずその国をあなたのものにしてあげよう」
とおっしゃいました。
「しかし、高いところへ登って西の方を見ましても、そちらの方はどこまでも大海ばかりで、国などはちっとも見えないではありませんか」
と、天皇はお答えになりました。
そしてお心のうちでは、
「これはほんとうの神さまではあるまい。きっといつわりを言う神が乗りうつったにちがいない」
とおぼしめして、それなりお琴をおしのけて、だまっておすわりになっていました。