□笠沙のお宮
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一
天照大神と高皇産霊神とは、あれほど乱れさわいでいた下界を、建御雷神たちが、ちゃんとこちらのものにして帰りましたので、さっそく天忍穂耳命をお召しになって、
「葦原の中つ国はもはやすっかり平らいだ。おまえはこれからすぐにくだって、さいしょ申しつけたように、あの国を治めてゆけ」
とおっしゃいました。
命はおおせに従って、すぐに出発の用意におとりかかりになりました。
するとちょうどそのときに、お妃の秋津師毘売命が男のお子さまをお生みになりました。
忍穂耳命は大神のご前へおいでになって、
「私たち二人に、世嗣の子供が生まれました。名前は日子番能邇邇芸命とつけました。中つ国へくだしますには、この子がいちばんよいかと存じます」
とおっしゃいました。
それで大神は、そのお孫さまの命が大きくおなりになりますと、改めておそばへ召して、
「下界に見えるあの中つ国は、おまえの治める国であるぞ」
とおっしゃいました。
命は、かしこまって、
「それでは、これからすぐにくだってまいります」
とおっしゃって、急いでそのお手はずをなさいました。
そしてまもなく、いよいよお立ちになろうとなさいますと、ちょうど、大空のお通り道のある四つじに、だれだか一人の神が立ちはだかって、まぶしい光をきらきらと放ちながら、上は高天原までもあかあかと照らし、下は中つ国までいちめんに照り輝かせておりました。