□八俣の大蛇
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       一

 須佐之男命は、大空から追いおろされて、出雲の国の、肥(ひ)の河の河上の、鳥髪というところへおくだりになりました。

 すると、その河の中にはしが流れて来ました。

命は、それをご覧になって、

「では、この河の上の方には人が住んでいるな」

とお察しになり、さっそくそちらの方へ向かって探し探しおいでになりました。

そうすると、あるおじいさんとおばあさんとが、まん中に一人の娘をすわらせて三人でおんおん泣いておりました。

 命は、おまえたちは何者かとおたずねになりました。

 おじいさんは、「私は、この国の大山津見(おおやまつみ)と申します神の子で、足名椎(あしなずち)と申します者でございます。妻の名は手名椎、この娘の名は櫛名田媛(くしなだひめ)と申します」

とお答えいたしました。

 命は、「それで三人ともどうして泣いているのか」と、かさねてお聞きになりました。

 おじいさんは涙をふいて、

「私たち二人には、もとは八人の娘がおりましたのでございますが、その娘たちを、八俣の大蛇と申します怖ろしい大じゃが、毎年出てきて、一人ずつ食べて行ってしまいまして、とうとうこの子一人だけになりました。そういうこの子も、今にその大じゃが食べにまいりますのでございます」

 こう言って、みんなが泣いているわけをお話しいたしました。

「いったいその大じゃはどんな形をしている」と、命はお聞きになりました。
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