□天の岩屋
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一
天照大神と、二番目の弟さまの月読命とは、おとうさまのご命令に従って、それぞれ大空と夜の国とをお治めになりました。
ところが末のお子さまの須佐之男命だけは、おとうさまのお言いつけをお聞きにならないで、いつまでたっても大海を治めようとなさらないばかりか、りっぱな長いおひげが胸の上までたれさがるほどの、大きなおとなにおなりになっても、やっぱり、赤んぼうのように、絶えまもなくわんわんわんわんお泣き狂いになって、どうにもこうにも手のつけようがありませんでした。
そのひどいお泣き方といったら、それこそ、青い山々の草木も、やかましい泣き声で泣き枯らされてしまい、川や海の水も、その火のつくような泣き声のために、すっかり干あがったほどでした。
すると、いろんな悪い神々たちが、そのさわぎにつけこんで、わいわいとうるさくさわぎまわりました。
そのおかげで、地の上にはありとあらゆる災が一どきに起こってきました。
伊弉諾命は、それをご覧になると、びっくりなすって、さっそく須佐之男命をお呼びになって、
「いったい、おまえは、わしの言うことも聞かないで、何をそんなに泣き狂ってばかりいるのか」
ときびしくおとがめになりました。
すると須佐之男命はむきになって、
「私はおかあさまのおそばへ行きたいから泣くのです」とおっしゃいました。
伊弉諾命はそれをお聞きになると、たいそうお腹立ちになって、
「そんなかってな子は、この国へおくわけにゆかない。どこへなりと出て行け」
とおっしゃいました。
命は平気で、「それでは、お姉上さまにおいとま乞いをしてこよう」
とおっしゃりながら、そのまま大空の上の、高天原をめざして、どんどんのぼっていらっしゃいました。