□第三部 マリユス
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第一編 パリーの微分子
一 小人間
パリーは一つの子供を持ち、森は一つの小鳥を持っている。
その小鳥を雀と言い、その子供を浮浪少年と言う。
パリーと少年、一つは坩堝であり一つは曙であるこの二つの観念をこね合わし、この二つの火花をうち合わしてみると、それから一つの小さな存在がほとばしり出る。ホムンチオ(小人)とプラウツスは言うであろう。
この小さな人間は、至って快活である。
彼らは毎日の食事もしていない、しかも気が向けば毎晩興行物を見に行く。
肌にはシャツもつけず、足には靴もはかず、身をおおう屋根もない。
まったくそういうものを持たない空飛ぶ蠅のようである。
七歳から十三歳までで、隊を組んで生活し、街路を歩き回り、戸外に宿り、踵の下までくる親譲りの古いズボンをはき、耳まで隠れてしまうほかの親父からの古帽子をかぶり、縁の黄色くなった一筋きりのズボンつりをつけ、駆け回り、待ち伏せし、獲物をさがし回り、時間を浪費し、パイプをくゆらし、暴言を吐き、酒場に入りびたり、盗人と知り合い、女とふざけ、隠語を用い、卑猥な歌を歌い、しかもその心のうちには何らの悪もないのである。
その魂のうちにあるものは、一つの真珠たる潔白である。
真珠は泥の中にあってもとけ去らぬ。
人が年少である間は、神も彼が潔白ならんことを欲する。
もし広大なる都市に向かって、
「あれは何だ?」
と尋ぬるならば、都市は答えるだろう、
「あれは私の子供だ。」