□野のはくちょう
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野のはくちょう
DE VILDE SVANER
ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
楠山正雄訳

 ここからは、はるかな国、冬がくるとつばめがとんで行くとおい国に、ひとりの王さまがありました。

王さまには十一人のむすこと、エリーザというむすめがありました。

十一人の男のきょうだいたちは、みんな王子で、胸に星のしるしをつけ、腰に剣をつるして、学校にかよいました。

金のせきばんの上に、ダイヤモンドの石筆で字をかいて、本でよんだことは、そばからあんしょうしました。

 この男の子たちが王子だということは、たれにもすぐわかりました。

いもうとのエリーザは、鏡ガラスのちいさな腰掛に腰をかけて、ねだんにしたらこの王国の半分ぐらいもねうちのある絵本をみていました。

 ああ、このこどもたちはまったくしあわせでした。

でもものごとはいつでもおなじようにはいかないものです。

 この国のこらずの王さまであったおとうさまは、わるいお妃と結婚なさいました。このお妃がまるでこどもたちをかわいがらないことは、もうはじめてあったその日からわかりました。ご殿じゅうこぞって、たいそうなお祝の宴会がありました。こどもたちは「お客さまごっこ」をしてあそんでいました。

でも、いつもしていたように、こどもたちはお菓子や焼きりんごをたくさんいただくことができませんでした。

そのかわりにお茶わんのなかに砂を入れて、それをごちそうにしておあそびといいつけられました。

 その次の週には、お妃はちいちゃないもうと姫のエリーザを、いなかへ連れていって、お百姓の夫婦にあずけました。

そうしてまもなくお妃はかえって来て、こんどは王子たちのことでいろいろありもしないことを、王さまにいいつけました。

王さまも、それでもう王子たちをおかまいにならなくなりました。

「どこの世界へでもとんでいって、おまえたち、じぶんでたべていくがいい。」

と、わるいお妃はいいました。

「声のでない大きな鳥にでもなって、とんでいっておしまい。」

 でも、さすがにお妃ののろったほどのひどいことにも、なりませんでした。

王子たちは十一羽のみごとな野の白鳥になったのです。
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