□雪の女王
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雪の女王
SNEDRONNINGEN
七つのお話でできているおとぎ物語
ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
楠山正雄訳
第一のお話
鏡とそのかけらのこと
さあ、きいていらっしゃい。
はじめますよ。
このお話をおしまいまできくと、だんだんなにかがはっきりしてきて、つまり、それがわるい魔法使のお話であったことがわかるのです。
この魔法使というのは、なかまでもいちばんいけないやつで、それこそまがいなしの「悪魔」でした。
さて、ある日のこと、この悪魔は、たいそうなごきげんでした。
というわけは、それは、鏡をいちめん作りあげたからでしたが、その鏡というのが、どんなけっこうなうつくしいものでも、それにうつると、ほとんどないもどうぜんに、ちぢこまってしまうかわり、くだらない、みっともないようすのものにかぎって、よけいはっきりと、いかにもにくにくしくうつるという、ふしぎなせいしつをもったものでした。
どんなうつくしいけしきも、この鏡にうつすと、煮くたらしたほうれんそうのように見え、どんなにりっぱなひとたちも、いやなかっこうになるか、どうたいのない、あたまだけで、さかだちするかしました。
顔は見ちがえるほどゆがんでしまい、たった、ひとつぼっちのそばかすでも、鼻や口いっぱいに大きくひろがって、うつりました。
「こりゃおもしろいな。」
と、その悪魔はいいました。
ここに、たれかが、やさしい、つつましい心をおこしますと、それが鏡には、しかめっつらにうつるので、この魔法使の悪魔は、じぶんながら、こいつはうまい発明だわいと、ついわらいださずには、いられませんでした。