□醜い家鴨の子
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醜い家鴨の子
DEN GRIMME AELING
ハンス・クリスチャン・アンデルゼン Hans Christian Andersen
菊池寛訳


 それは田舎の夏のいいお天気の日の事でした。

もう黄金色になった小麦や、まだ青い燕麦や、牧場に積み上げられた乾草堆など、みんなきれいな眺めに見える日でした。

こうのとりは長い赤い脚で歩きまわりながら、母親から教わった妙な言葉でお喋りをしていました。

 麦畑と牧場とは大きな森に囲まれ、その真ん中が深い水溜りになっています。

全く、こういう田舎を散歩するのは愉快な事でした。

 その中でも殊に日当りのいい場所に、川近く、気持のいい古い百姓家が立っていました。

そしてその家からずっと水際の辺りまで、大きな牛蒡の葉が茂っているのです。

それは実際ずいぶん丈が高くて、その一番高いのなどは、下に子供がそっくり隠れる事が出来るくらいでした。

人気がまるで無くて、全く深い林の中みたいです。

この工合のいい隠れ場に一羽の家鴨がその時巣について卵がかえるのを守っていました。

けれども、もうだいぶ時間が経っているのに卵はいっこう殻の破れる気配もありませんし、訪ねてくれる仲間もあまりないので、この家鴨は、そろそろ退屈しかけて来ました。

他の家鴨達は、こんな、足の滑りそうな土堤を上って、牛蒡の葉の下に坐って、この親家鴨とお喋りするより、川で泳ぎ廻る方がよっぽど面白いのです。

 しかし、とうとうやっと一つ、殻が裂け、それから続いて、他のも割れてきて、めいめいの卵から、一羽ずつ生き物が出て来ました。

そして小さな頭をあげて、

「ピーピー。」

と、鳴くのでした。
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