□大鈴小鈴
2ページ/12ページ

それを阿知直という者が、すばやくお抱え申しあげ、むりやりにうまにお乗せ申して、大和へ向かって逃げ出して行きました。

 お酔いつぶれになっていた天皇は、河内の多遅比野というところまでいらしったとき、やっとおうまの上でお目ざめになり、

「ここはどこか」

とおたずねになりました。

阿知直は、

「中津王がお宮へ火をお放ちになりましたので、ひとまず大和の方へお供をしてまいりますところでございます」

とお答え申しました。

 天皇はそれをお聞きになって、はじめてびっくりなさり、

「ああ、こんな多遅比の野の中に寝るのだとわかっていたら、夜風を防ぐたてごもなりと持って来ようものを」

と、こういう意味のお歌をお歌いになりました。

 それから埴生坂という坂までおいでになりまして、そこから、はるかに難波の方をふりかえってご覧になりますと、お宮の火はまだ炎々とまっかに燃え立っておりました。

天皇は、

「ああ、あんなに多くの家が燃えている。わが妃のいるお宮も、あの中に焼けているのか」

という意味をお歌いになりました。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ