□赤い盾、黒い盾
5ページ/6ページ
大毘古命は変だと思いまして、わざわざうまをひきかえして、
「今言ったのはなんのことだ」
とたずねました。
すると小娘は、「私はなんにも言いはいたしません。ただ歌を歌っただけでございます」
と答えるなり、もうどこへ行ったのか、ふいに姿が見えなくなってしまいました。
大毘古命は、その歌の言葉がしきりに気になってならないものですから、とうとうそこからひきかえしてきて、天皇にそのことを申しあげました。
すると天皇は、
「それは、きっと、山城にいる、私の腹ちがいの兄、建波邇安王が、悪だくみをしている知らせに相違あるまい。そなたはこれから軍勢をひきつれて、すぐに討ちとりに行ってくれ」
とおっしゃって、彦国夫玖命という方を添えて、いっしょにお遣しになりました。
二人は、神々のお祭りをして、勝利を祈って出かけました。
そして、山城の木津川まで行きますと、建波邇安王は案のじょう、天皇におそむき申して、兵を集めて待ち受けていらっしゃいました。
両方の軍勢は川を挟んで向かい合いに陣取りました。
彦国夫玖命は、敵に向かって、
「おおい、そちらのやつ、まずかわきりに一矢射てみよ」
とどなりました。