□赤い盾、黒い盾
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 大毘古命は変だと思いまして、わざわざうまをひきかえして、

「今言ったのはなんのことだ」

とたずねました。

 すると小娘は、「私はなんにも言いはいたしません。ただ歌を歌っただけでございます」

と答えるなり、もうどこへ行ったのか、ふいに姿が見えなくなってしまいました。

 大毘古命は、その歌の言葉がしきりに気になってならないものですから、とうとうそこからひきかえしてきて、天皇にそのことを申しあげました。

すると天皇は、

「それは、きっと、山城にいる、私の腹ちがいの兄、建波邇安王が、悪だくみをしている知らせに相違あるまい。そなたはこれから軍勢をひきつれて、すぐに討ちとりに行ってくれ」

とおっしゃって、彦国夫玖命という方を添えて、いっしょにお遣しになりました。

 二人は、神々のお祭りをして、勝利を祈って出かけました。

そして、山城の木津川まで行きますと、建波邇安王は案のじょう、天皇におそむき申して、兵を集めて待ち受けていらっしゃいました。

両方の軍勢は川を挟んで向かい合いに陣取りました。

彦国夫玖命は、敵に向かって、

「おおい、そちらのやつ、まずかわきりに一矢射てみよ」

とどなりました。
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