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12/01(Mon) 00:19
金月と樹海
花京院×貴族主人公




真ん丸に肥え太った豪華な黄金の月を眺めていると、不意にあの方を思い出して嫌になる。

所々白いペンキが剥がれ、腐った木が見え隠れする粗雑なコテージの柵を撫でながら私は夜空と向き合った。シアンの空に燃ゆる金の星はいつ見ても美しく、無数に散りばめられた自然の宝石は長年生きて来た私の矮小な心を癒す。星は神秘的で美しいから好き。幾星霜、毎日見たって飽きないし、ふとした時に眺めていないと不安になる。

それに比べて月はあまり好きではない。

目を離した隙に夜空から消えてしまっていたり、かと思えば今宵のように堂々と胸張ってその凛然たる姿を披露する。私を翻弄するのがお上手な月は、あの方に似ていて嫌い。



「…大嫌いよ……」



少女のように呟いたってその言葉はあの方には届かず、月だって私の声が小さすぎて聞き取れなくてなかったことにするのだろう。月は大きすぎて私の声なんて微塵も届きはしないのだ。

それは無性に腹立たしくもあり、また虚しい気持ちに満ちる。相手があまりにも大きいから。小さな私の存在なんて認知してもらえない。



「カレンさん、そんなところで一体何をしているんですか?」



ふとコテージの下から名前を呼ばれて、スカートを気にしながら下を覗けば、典明が不思議そうな顔をして私を見上げていた。私を見つめる聡明なエメラルドの瞳に、少しだけ心が落ち着く。闇夜を不気味に照らす金月よりも、闇に静かに融けてしまいそな翠の方が余程良い。



「こんばんは。典明こそ、こんな時間に何をしていますの。子供は眠る時間ですわよ」

「子供って…中々寝付けなくて外の空気を吸いに来たんです。部屋の窓だと開けたときに、皆に敵襲と勘違いさせては申し訳ないので」

「あらそれは殊勝な心がけですこと」

「それで、カレンさんはどうして外に?」



あくまで私が外にいる理由を聞くまでは食い下がろうとしない典明に、眉根を寄せる。

…DIOの事を考えていました。

なんて口が裂けても言えませんし、かと言って喉の渇きが酷くて目が覚めました、とも言えない。事実臓物の全てが捩れて引きちぎられそうな痛みが襲っているのだけど、長年この痛みに付き合っていると慣れてくる。本当はとても痛いのだけれど。



「カレンさん?」

「…月に魅入られて」

「え?」

「いえ…月を見ていただけですわ」



典明はキョトンと目を丸くして私を見ている。ですが私、嘘はついていませんわ。月光の妖しい光に導かれるがままにいつの間にかコテージへ出ていて、無意識に月を眺めていました。傲慢で荘厳な、あの黄金の月を。

傍にいるだなんて、愚かな錯覚を起こして。



「ああ、確かに今日の月は美しいですね。久しぶりにこんな大きな月を見ましたよ」



ええ、困ったことに、そうなんですの。

大きすぎて、

近く見える



「…典明。今からそちらへ行きますので、そこを動いたら許しませんわよ」



本当は、とても遠い



「え?はい…え…?」



「そちらへ行く…?」と不思議そうな顔で反芻する典明。私は躊躇いなく膝をコテージの古びた柵に乗せると、もう片方の足で床を蹴って、宙へ飛んだ。



「ッカレンさん!?」



月明かりの下、ワインレッドのスカートがふわりと広がる。

突然のダイブは典明を相当驚かせたらしい、珍しく精彩を欠いた顔で私を受け止めようと慌てて両手を広げた。しかし、その心配には及びません。



「貴族たる者、そう簡単に他者の手は借りませんわ」



ヒールのつま先が優しく大地に口づけを贈る。柔らかく膝を曲げ、ふわりと舞うスカートを優雅に捌き、背筋を伸ばした。ふわりと涼風が頬を撫でる。

飛ぶ前は少し緊張していたのですけど、飛んでしまった後は意外となんともないのですね。宙に身を任せた行動その爽快感に暫く感じ入っていると、我に返った典明が飽きれたように苦笑した。



「どこまでも、美しい人ですね」

「貴族ならばこのくらい当然ですわ」

「貴族なら2階から飛ばずとも、階段を使って降りてきてください。心配しました」

「典明のくせに生意気ですわね」



普段あまり心配されたことがない私は、典明に当たり前のように「心配した」と言われ、どう反応して良いのかわからずに素っ気無く返答してしまった。全く、このような事で動揺する私もまだまだ矮小ですわね。

何事も出来て当然、出来ないのなら努力するのが当たり前。そのような環境で育ってきた私には典明の優しさが苦手。優しさと甘やかすはイコールではありませんが、区別するのが難しいのです。あまり優しくされると絆されて自分が駄目になってしまうような気がして、そうなってしまうよりは厳しく接していただいた方が気が楽です。

しかしそれは自分に都合の良い接し方をしろ、と相手に強要しているようなもので、私の精神が許しません。ですので優しい典明のまま、私自身が苦手を克服しようと思うのです。

傲慢なあの方と、正反対の彼の者を。



「カレンさん、寒くないですか?」

「平気ですわ。このくらいの気温の方が、弛んだ身を引き締めてくれますもの」

「確かにそうですね。でも休める時に休んでおかないと、いざという時に本領が出ませんよ」

「いつも気を引き締めて最善の力で挑んでこそ、一流ですわ。私なら大丈夫です」



それに私は永い時間、十二分に休みました。

寧ろ休み過ぎたくらいですわ。



「典明こそ、早く眠りなさい。明日は朝早くてよ」




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